パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」に拉致された人質の家族らが22日、スイス・ジュネーブの国連事務所前の路上で開かれた集会に参加し、数百人の参加者と共に人質の解放を求めるとともに、国際社会に行動を呼びかけた。
集会は、ハマスが7日、イスラエルに対する大規模攻撃を行い、多数の民間人を含む約1400人を殺害したことを受け、70カ国250以上の団体が協力して組織した「自由のための声連合」(VFC)が主催した。イスラエルは、この攻撃で少なくとも222人が拉致されたと発表している。
集会では人質の家族らが、その心の痛む体験を分かち合った。
イスラエル南部レイムで開催された音楽祭で拉致されたオメル・セム・トブさん(21)のおじであるアサフ・セム・トブさんは、この恐ろしい出来事の一部始終を語った。それによると、音楽祭にオメルさんは徹夜で参加していたが、ハマスによる残忍な攻撃が始まると、音楽祭は多くの罪のない参加者が拉致されるという悪夢と化した。オメルさんをはじめとする多くの人が、攻撃から2週間以上たった今も人質に取られている。
アサフさんは次のように語った。
「オメルは、他人のためなら何でもする愛情深い人間です。彼はウェイターとして働きながら、大きな旅行のためにお金を貯めていました。ただ21歳なら誰でもやりたいと思うこと、つまり夢をかなえるということをやっていただけなのです。彼は世界中から集まった何千もの人々と共に音楽祭に参加していました」
「(ハマスの攻撃を受け)彼は友人と車に乗ろうとしていました。彼は何とか私の兄に電話し、脱出方法を探していると伝えました。家族にも居場所を教えました。でも、道を間違えてガザに入ってしまいました。最初は信じられませんでした。何かの間違いではないかと思いました。その後、友人と一緒にピックアップトラックの荷台に乗せられている彼の動画を受け取り、彼が拉致され、ガザで拘束されていることを理解しました。私たち家族にとっても、他の多くの人々にとっても、打ちのめされるような瞬間でした」
同じく音楽祭で拉致されたガイ・イツァク・イルズさん(26)の母親ドリス・リベルさんは、負傷して危険な状態にあるガイさんから電話を受けたときの悲惨な瞬間を語った。息子への連絡の絶望的な試みと、続く息子の運命への不安についての感情的な説明は、人質の家族が直面する苦悩を浮き彫りにした。リベルさんは、次のように話した。
「私はシングルマザーで、ガイは一人息子です。ガイはとても繊細な子です。彼はミュージシャンです。9歳の時にエレキギターを買ってあげ、とても幼い頃から作曲をしてきました。彼は大勢の友達に囲まれていて、そのほとんどは近所の人たちで、彼らは私の家にも住んでいるようなものでした」
そのひどい朝は、イスラエルではよくあるサイレンで始まった、とリベルさんは話した。彼女は自分のベッドを離れ、ガイさんの部屋を兼ねた避難室に行くと、彼のベッドに潜り込み、うとうとしていた。すると、ガイさんから電話がかかってきた。雑音が聞こえたが応答はなく、彼女は間違い電話だと思い電話を切った。しかし、サイレンは鳴りやまなかった。彼女が電話をかけ直すと、ガイさんが緊急性を帯びた声で出た。彼は音楽祭から避難し、今は車で移動中だった。
「隣に座っていた親友が殺され、ガイは911(緊急通報番号)に電話しました。腕を撃たれて出血が止まらなかったのです。911のオペレーターが私に電話をつないでくれました。ガイは最後の言葉を言いたがっていました。私たちを愛していると言っていました。でも、背後から銃声とアラビア語が聞こえてきたのです」
その後、リベルさんの元には、ガイさんがガザ地区に対するイスラエルの空爆で死亡したことを示唆する中東の衛星テレビ局「アルジャジーラ」の報道が送られてきたという。
「(イスラエル)軍がやってきて、それは恐らく(ハマスによる)心理戦であり、彼が生きている望みはまだあると教えてくれました。だから、今はそれを信じて生きています」
「私が今日ここに来たのは、皆さんの心を動かして行動を起こすためです。私たちは何かをしなければならないのです」
人質の家族らが話した後、VFCの代表者が、7日の悲劇的なテロで失われた命をしのんだ。犠牲者への追悼としてろうそくがともされ、続いて黙祷がささげられた。
エルサレムに拠点を置くシオニズム団体「エルサレム国際キリスト教大使館」(ICEJ)の代表者らは、イスラエルと連帯するために世界中の人々を集めた。彼らは、現在の状況とホロコーストの類似点を示し、悪に対する団結の必要性を強調した。そして、各国政府と赤十字に対し、無条件の人質解放を求めるよう促した。
超教派のイスラエル支援組織「クリスチャン・フォー・イスラエル」(C4I)のレオン・メイジャー会長は、人質の命を救うために迅速に行動するよう国際機関に呼びかけた。また、国連人権理事会と赤十字に対し、戦時における文民の保護に関して定めたジュネーブ条約(第4条約)に基づき、民間人を保護し、人質とされることを防止する責任があることを喚起した。
メイジャー氏は次のように語った。
「私たちは今日、どのような人間になりたいのか、どちらの側に立ちたいのか、歴史のどちらの側に立ちたいのかを選択するためにここに立っています。全ての人は、日々の生活や置かれた立場でその選択をしなければなりません。善と悪のどちらかを選ぶのです」