米シンクタンク「ピュー研究所」はこのほど、中国の宗教に関する新たな調査報告(英語)を発表した。調査は、宗教界のノーベル賞として知られるテンプルトン賞の主催団体である米ジョン・テンプルトン財団が出資するプロジェクトの一環として行われた。共産主義を掲げる中国は、無神論国家とされているものの、これまでとは異なるアプローチを取った今回の調査により、宗教的信仰が予想以上に多様であることが明らかになった。
ピュー研究所は今回、現地の実地調査の代わりに、中国国内の学術団体や、中国政府が公認する宗教団体や政府機関が公表しているデータを使用。これらのデータを分析することにより、中国国内で調査ができないという外国人研究者が直面する課題を克服し、中国人の心の中に宗教がどのような位置を占めているかを明らかにする詳細な調査に成功した。
調査では、中国には世界の他の地域で使われている宗教カテゴリーを適用しづらいこと、また、中国を含む東アジアの宗教的信仰・習慣は独特で多様であることを考慮し、各種データから収集された幅広い質問事項を検討対象とした。また、西洋の宗教概念になじみのあるものだけでなく、墓参りや風水などについても、宗教的表現として扱った。
中国政府は、宗教的信仰を不安要素と見なし、無神論的な世界観を公に推進している。それでも中国の成人の多くは宗教的な実践を続けている。しかし、公式に宗教と認められているのは、その10分の1に過ぎないという。
ピュー研究所は今回、人口の3分の1に当たる何らかの宗教的信仰を持つ人々と、特定の宗教を信じていると自認する人々の間のギャップは、しばしば中国文化で使用される用語の違いによってもたらされていることを証明した。
2018年の「中国総合社会調査」(CGSS)では、調査対象の成人のうち、何らかの宗教グループに属するとされた人は少数派だったが、その質問の文言は、あたかも特定の宗教または価値体系との正式な同一を宣言するよう求めるものだった。そのため、今回の調査では宗教の定義を拡大し、スピリチュアリティー、習慣、迷信に関する質問も考慮に入れることで、中国における宗教的信仰の幅広さを明らかにすることができた。
宗教的実践と宗教に関する自己認識の間のギャップの一例には、次のようなものがある。
18年のCGSSによると、中国の成人のうち仏教徒を自認する人は4%に過ぎないが、16年の「中国家族追跡調査」(CFPS)によると、成人の4分の1以上が少なくとも年に数回は線香をたいている。これは通常、仏陀や他の神々に何らかの神的介入を懇願することを含む行いだ。
中国におけるキリスト教信仰の程度を正確に把握することも、このような独特の課題によってさまざまな困難がある。
10年のCGSSによると、中国の成人のうちキリスト教徒を自認する人は2%(2320万人)とされる。しかし、これを「イエス・キリストまたはキリスト教の神への信仰を進んで告白する人々」にまで拡大すると、18年のCFPSによれば、人口の7%(8100万人)が該当する。一方、西洋人の目には奇妙なことだが、イエス・キリストやキリスト教の神への信仰を公言するこれらの人々の多くは、仏陀や道教の神々、アッラーなど、1つ以上の非キリスト教の神への信仰も持っていた。
さらに、中国政府が、宗教的信仰、特に西洋の影響力を拡大する危険性があると見なす宗教的信仰と、しばしば敵対的な関係にあることも、問題をより複雑にしている。
中国政府は、特に現在の習近平国家主席の下で「宗教の中国化」を進めており、プロテスタントの「家の教会」やカトリックの「地下教会」など、政府が公認していないキリスト教の教会を取り締まっている。そのため、これらの多くの信者は、中国政府による迫害の可能性を前にして、自らの信仰を明かすことに消極的になる可能性がある。
このように、中国の宗教動向を正確に把握することは難しいが、今回のピュー研究所の調査は、中国政府の最善の努力にもかかわらず、中国国民が、政治が提供するよりも深い人生の意味を探し続けていることを示している。また、キリスト教も、継続的な困難に直面しながらも、多くの中国人の心の中に居場所を維持しており、そこには将来的な希望も垣間見える。