米南部テキサス州の上院は、公立学校の全ての教室に旧約聖書に記された十戒を目立つように掲示することと、生徒や教職員のために祈りや聖書朗読の時間を確保することを義務付ける2つの法案を可決した。
可決されたのは、いずれも共和党のフィル・キング議員が提出した上院法案第1515号(英語)と、メイズ・ミドルトン議員が提出した上院法案第1396号(英語)。前者は、州内の公立小中学校の各教室に十戒を掲示することを義務付けるもので、後者は、宗教色のない公立学区に対し、生徒や教職員が平日開催の「祈りと聖書朗読の時間」(参加は任意)に参加できるよう、時間の確保を義務付けるもの。いずれも上院で4月20日に可決され、下院で可決されれば成立することになる。
現在、テキサス州には公立学校の各教室に十戒を掲示する義務はない。しかし、法案作成者のキング議員は、米連邦最高裁が昨年に下した「ケネディ対ブレマートン学区」訴訟の判決により、少なくとも法的にはそのような提案が可能になったと主張している。
この訴訟は、ワシントン州ブレマートンの公立高校でフットボール部のアシスタントコーチを務めていたジョー・ケネディ氏が2015年、試合後にフィールド内で祈ったことを理由に、ブレマートン学区から停職処分を受けたことを巡るもの。米連邦最高裁は昨年6月、「米国憲法修正第1条の信教の自由と言論の自由の両条項は、ケネディ氏がしたような表現行為を保護している」とし、学区の処分を差別に当たるとした(関連記事:試合後に祈って停職処分の米公立高校アメフト部コーチ、最高裁で逆転勝訴)。
一方、米連邦最高裁は1980年の「ストーン対グラハム」訴訟の判決で、全ての公立学校の教室の壁に十戒を掲示することを義務付けたケンタッキー州法は、政府による宗教の確立を禁止する米国憲法修正第1条の国教樹立禁止条項に反するとして、違憲としている。
第1515号法案の本文には、法案を制定することで、「テキサス州中の生徒たちが、米国やテキサス州の法律の基本的な基盤である十戒の重要性を再認識するだろう」と記されている。米キリスト教メディア「クリスチャンポスト」は、法案を提出したキング議員の事務所に詳細についてコメントを求めたが、回答は得られなかった。
第1396号法案は、学校内の公的放送を用いて祈りや聖書の朗読が行われることを伝えることにつながる一方、生徒の参加については保護者の同意を必要とするなど配慮もなされている。法案には次のように記されている。
「公立学校の生徒は、学校の教育活動やその他の活動を妨げない範囲で、学校内で個人的に、自発的に、また静かに祈ったり瞑想したりする、絶対的な権利を有している」
「人は、あらゆる学校活動において、そのような祈りや瞑想を行うこと、または控えることを生徒に要求したり強制したりしてはならない」
祈りに関しては、米連邦最高裁が1962年、「エンゲル対ビタール」訴訟の判決で、ニューヨーク州職員が公立学校で暗唱させる公式の祈りを作成することを違憲とする判決を下している。
テキサス州のダン・パトリック副知事(共和党)は、両法案が上院で可決されたことは、全州民の信教の自由を確保するための新たな一歩だとし、歓迎した。
「十戒と祈りを公立学校に取り戻すことは、全てのテキサス州民が心から信じる宗教的信条を自由に表現する権利を確保するための一歩です」
「私は、人類の文化を変えない限り、国の文化を変えることはできないと信じています。十戒と祈りを公立学校に取り戻すことで、生徒たちはより良いテキサス州民になることができます」
テキサス州議会は2021年、米国の国家公式標語である「In God We Trust(われわれは神を信じる)」が書かれた看板の学校内掲示を義務付ける法案を可決している。
「In God We Trust」の看板を巡る議論は、キリスト教保守主義を強く掲げる通信会社「パトリオットモバイル」(英語)が昨年8月、テキサス州のキャロル独立学区に看板を寄贈したことで始まった。同社は、経営部門とは別に政治活動を行う委員会を持ち、同州北部の幾つかの学区で、保守派を教育委員会に送り込むため、多額の資金を投じて活動している。
こうした動きはテキサス州の複数の都市で見られ、同州北部のノース・リッチランド・ヒルズ市は2016年、新市庁舎に「In God We Trust」の看板を設置することを決議している。