本紙にさまざまな書評や映画評を寄稿してくださっている青木保憲牧師(グレース宣教会)が25日、新刊『読むだけでわかるキリスト教の歴史』(イーグレープ)を出版した。出版の経緯や本書に寄せた思いについて話を聞いた。
◇
『読むだけでわかるキリスト教の歴史』の出版おめでとうございます。
ありがとうございます。2012年に、最初の著作『アメリカ福音派の歴史—聖書信仰にみるアメリカ人のアイデンティティ』を明石書店から出させていただいてから9年がたちました。もうそんなにたったのかと思うと同時に、まだ9年かという思いもあります。
本書の完成までかなりご苦労があったとお聞きしています。出版までどのような経過をたどったのでしょうか。
そもそも本書は今から20年以上前、私の神学生時代に持ち上がった企画でした。正確に言うと「先生、こんな本どうでしょう?」と、神学生であった私から「持ち掛けた」ものでした。2000年のことだったと思います。当時32歳。その頃はまだ若かったなあ(笑)
神学生時代に出した企画は、私の名前が一切出ない形での出版でした。神学校ですから当然、キリスト教の歴史の授業があります。それを担当していた先生の講義がとても面白く、また斬新だったのです。実際に私がその授業を受講したのが1年生の時でした。そして3年後にあらためて授業を聴講させてもらいました。その時は先生の話を聞き取り、それを毎回、パソコンを使ってまとめ文章化したのです。その先生の名前で出版することを目指していたのですね。つまり私はゴーストライターだったのです。しかし、諸般の事情で神学校としては最終的なGOを出せず、そのままお蔵入りとなってしまいました。
いつか出版したいという思いはあったのですか。
ずっとその思いはありました。しかし、私の前にはさまざまな障壁が立ちはだかっていました。まず、誰にも頼らず出版するにはお金が必要です。そんなお金はない。また当時の私には、キリスト教の歴史に対する十分な知識がありませんでした。私は神学校で受けた授業に基づいて、それらを「文章化」しただけです。それを私の名前で出すなんてできません。だから「これはこのままかな」と、少し諦めかかった思いで5年近く自分のパソコンの中に眠らせておいたのです。
その後、同志社大学大学院へ進学されました。大学院での学びが本書に影響していますか。
まさにその通りです。私は2005年から同志社大学大学院神学研究科へ進みました。そこで森孝一教授と出会いました。森先生の専門が宗教史でしたので、あらためて森先生からもキリスト教の歴史について授業を受けることになったのです。同志社大学の神学部・神学研究科には、キリスト教の歴史を専門にしておられる先生が他にもおられ、夏期休暇などの特別講義を担当するため、他大学の先生が来られることもありました。同志社時代の6年間で、約2千年にわたるキリスト教の歴史を網羅的に学ぶことができたのです。
そこで学ばせていただいた知識や歴史観に基づいて、かつての原稿を自分なりに書き直したのが本書です。当初の企画段階からすると、結果的に20年近くの歳月がたってしまいました。
それでは本書は、歴史神学に基づいた本ということになるのでしょうか。そうすると、小難しい感じがしますが・・・。
いえいえ、ご安心ください。前著は私の博士論文ほぼそのままでしたから、いわゆる専門書です。これはそれなりの知識がないと読み解けません。しかし今回は、明確に読者層を絞り込んでいます。
そもそも本書を出そうと思った直接的なきっかけは、私が属する「グレース宣教会」が今秋から聖書神学校「Grace Mission School」(GMS)を開講したことです。ここで多くの方に、キリスト信仰の素晴らしさと、この2千年間の先人たちの苦労を知ってもらいたいと思ったのです。キリスト教の歴史に関する講座は来春からとなりましたが、ここで一気呵成(かせい)に仕上げておこうということになったのです。
ですから本書は、キリスト教の歴史に興味はあるけれど、大学や専門機関でその手の学びを一度もしたことがない、という方向けです。具体的には、信徒として毎週楽しく教会に通っている方々です。それぞれの教会で開かれる「学び会」でテキストとして読む、あるいは歴史好きな方であれば、夜寝る前に軽く読む一冊としてお手頃かと思います。また、これから大学でキリスト教と向き合うことになる人文系(文学部、国際学部、法学部など)の1年生にも最適だと思っています。
だから「読めばわかる」なんですね。
そうです。前知識がなくても、本書の中の解説を通して理解できるよう、「読めばわかる」を意識しています。同時に「歴史観」という概念を強くイメージしました。歴史とは、単なる出来事の羅列ではありません。各々の出来事をどの観点から解釈するのか、これにつきます。こういった視点を複数持っておくことは、私たちの日常を豊かにすると考えています。
キリスト教の歴史を扱った本は他にもありますが、本書のオリジナリティーは何でしょうか。
面白いと思うのは、福音派の神学校で講義されていた内容が、いわゆるリベラルだとされる同志社大学で教えられた切り口で語り直されていることです。同志社大学というと、福音派など保守的なキリスト教の立場にある方は少し距離を取ってしまいたくなるでしょう。しかし、一見「水と油」のように異なる歴史観が一つに結び合わされることで、実はより彩りのあるキリスト教の歴史が生まれるのです。これを読者の皆さんに知っていただきたいです。
そのための工夫も施されています。まずは値段。前著はハードカバーで500ページを超える内容であったため、5千円近い価格でした。これをおいそれと「買ってください」とは言えません。そこで今回は本書の出版社、イーグレープの穂森宏之社長と相談し、定価千円(税抜き)としました。250ページ近くありますが、新書感覚で読んでもらいたいと思い、この価格にさせていただきました。
もう一つは、随所に挿入されているコラムとCD、書籍、映画の紹介コーナーです。特に書籍と映画に関しては、「キリスト教万歳!」という啓蒙的なものばかりではありません。しかし、本書を読んでさらに学びたいと思われた方にとっては、次のステップとして最適なものを取り上げています。皆さんの知的好奇心をあえて刺激するようなものをピックアップしています。
最後に本紙の読者に向けたメッセージをどうぞ。
「キリスト教の歴史」ってちょっと難しそう、と思っておられる方がいましたら、ぜひだまされたと思って本書を手に取ってみてください。平易な文章を意識し、さらに私の友人と息子がイラストを描いてくれていますので、読みやすく、疲れない内容に仕上がっています。また、基本的には福音派の立場から書いていますので、読み終えたらきっと「恵まれる」こと請け合いです。
本書は私から神様へのご恩返しのようなものです。教会生まれ教会育ちの私にとって、キリスト教の歴史とは私のバックボーンです。これを知ることによって、現代に生きる私たちがクリスチャンとしてどのように生きるべきかをつかむことができると信じています。一人でも多くの方に本書を手にしていただきたいと思っています。また、要請があれば皆さんの教会にお伺いして、特別レクチャーなどもさせていただきます。小学校から大学まで、学校からのオファーも大歓迎です。まずはお読みください!
◇
『読むだけでわかるキリスト教の歴史』は、25日からアマゾンで購入できるほか、イーグレープ(電話:04・7170・1601、FAX:04・7170・1602、メール:[email protected])でも注文を受け付けている。