米キリスト教音楽界の重鎮で3度のグラミー賞受賞経験のあるマイケル・W・スミス氏(63)は、教会が父親不在の危機に目覚め、父親のいない子どもたちのメンターや「代理父」として奉仕することが必要だと話す。
クリスチャンポストのインタビューに応じたスミス氏は、薬物やアルコール中毒、10代での自殺など、父親の不在が子どもたちにもたらす悲劇的な影響について語った。
全米教育統計センター(NCES)の調査(英語)によると、米国では小学1年生から高校3年生までの子どものうち、4パーセントは何らかの事情で両親と生活しておらず、その多くは祖父母や親戚と生活しており、こうした子どもたちの39パーセントは、過去1年間に一度も父親と会っていないという。
「多くの代理父が必要です。メンターを必要としている若者が何千人もいます。メンターとなることは、政府の仕事だとは思いません。これは教会の仕事だと思います」とスミス氏は言う。「これは危機であり、私たちは目を覚ます必要があります。そして、解決策の一部にならなければならないことに気付くべきです。私たちには解決策となるツールがあるからです。教会は立ち上がりましょう。私自身も含めて、そうすべきです」
5人の子どもと16人の孫がいるスミス氏にとって、父親の役割を務めることは身近なテーマだという。自分の人生を変え、神の性質について学ばせてくれたのは、実父であるポール・スミス氏の愛と忍耐と犠牲だったとスミス氏は話す。
2015年に他界した父親について、「父は多くの点で、神がどのような存在であるかを教えてくれました」とスミス氏は語る。「父は私の人生に寄り添ってくれました。私を愛してくれました。父には神の属性がたくさんありました。父は常に楽観的でした。明るい性格で、毎日声を上げて笑っていました。ホームレスに食事を提供し、母をこよなく愛していました」
新著『The Way of the Father: Lessons from My Dad, Truths about God(御父の道:私の父から学んだこと、神に関する真理)』の中でスミス氏は、父親が残してくれた霊的遺産を称賛している。スミス氏は同書で、無条件に愛することや悲劇の中でも勝利を得ることなど、心温まるエピソードを交えつつ、父親を通して示された神の性質について述べている。
ウェストバージニア州での貧しい生活から、世界各地のステージで何百万人もの聴衆を前にパフォーマンスするに至るまで、父親は常に自分の一番のファンだったとスミス氏は言う。
年老いた父親が倒れ、母親とスミス氏が心配そうに見守る中、救急車で近くの病院に搬送されたとき、ストレッチャーに乗せられた父親は、頭をもたげて救急隊員にこう言ったという。「君たち知っているかい。あそこにいるのが私の息子のマイケル・W・スミスだ」
「私は父にとって、それほど自慢の息子だったのです」とスミス氏は笑いながら振り返る。「父は私のことを世界一だと思っていたようです」
父親が語るその言葉を聞いた次の瞬間、スミス氏は神がこう語るのを聞いたという。「私もあなたのことを同じように思っている」と。
「それを聞いたとき、私は息が止まらんばかりでした。それは私にとって、神がご自身を示された瞬間でした。私はコンサートでは、終盤の夜になると幾度となくその話をしたことがあります。その体験は神の愛の現れでした」
スミス氏は、福音派の一部で描かれる神観が原因で、多くの人が「神と友になることに葛藤を覚えている」と言う。「その人たちは、本当に神が自分たちのことを喜んで歌い、踊るということが理解できずにいるのです。こうした約束を通して、神は人々の父になりたいと語っているのに」
また、父親から虐待を受けて育った人や、父親のような存在がいなかった人は、その経験から神とは「関わりたくない」と思うこともあると話す。
「真実を描くのは厄介なことです」とスミス氏。「しかし、最終的に人々がそれを理解するのを見ると、ひらめきが与えられるように革新的です。なぜなら、自分が愛されていることを知るまで、人は自分の運命を全うすることはできないからです」
「神の父性的な心を理解し、神がどれほどあなたを愛しているかを知ったとき、あなたはどうしますか。ただ、それに応えるのです。そうすると、あなたは従順に歩むようになり、正しいことをしたい、神を喜ばせたいと思うようになります。『神様、御国の建設のために私には何ができるでしょうか』と。神がしてくださったことの故に、あなたはただ神を愛したくなるのです」
「茶番を見たり、人々がおかしなことをしているのを見たりすると、その人たちが御父を知らないことが分かります。でも、その人たちは御父を知ることができるのです。私はみなさんが見たこともないような悪を見てきましたが、その人たちがイエスに心を向けるのを見てきました。ですから、誰にでも希望があるのです」
次世代に情熱的な思いを注ぐスミス氏は、30年近く前にテネシー州ナッシュビルの中心部にキリスト教主義の青少年支援施設「ミドルテネシーのロケットタウン」を設立した。
「私たちの活動の多くは、家庭環境に恵まれない子どもたちをメンタリングして愛情を注ぐことにあります。この子たちは、自分が愛されていること、大切にされていることを知っています。私たちは、過去の行いや境遇とは無関係にその子たちを愛しています」
スミス氏は自著を通して、読者が父なる神の恵み深さを実感できるよう祈っていると言い、神の恵み深さを信じることは「革新的」だと強調する。
主を知り、主を愛する子どもたちを育てるには、子どもたちとコミュニケーションをとり、間違ったときには謝り、何よりもイエスが子どもたちを愛するように子どもたちを愛することだとスミス氏は親たちに勧める。
「そのためには、忍耐と境界線が必要です。私にも問題はありますが、もし私に良いところがあるとすれば、それは何よりもまず、私の人生におけるキリストの働きです。それは私の父であり、父が教えてくれた人生の生き方です。父がその模範を示してくれたからです」
「試練や苦難はあるでしょうが、一貫性を保つことが大切です。最後までやり遂げてください。そして、たくさん祈ってください。神の手が子どもたちの上にあり、彼らの周りに守りの垣根があるように、子どもたちのためにたくさん祈るのです。そして、そういう人生を生きるのです」
数々のヒット曲やワーシップソングを世に送り出してきたスミス氏は、現代キリスト教音楽(CCM)界で最も知名度の高いアーティストの一人だ。この数十年は、自身の人生経験に基づいた曲だけでなく、コロンバイン高校銃乱射事件や米同時多発テロ事件など、時事問題をテーマにした曲も書くように召されているという。「何か危機的なことがあると、『これに関連した曲を作らなければならない』と感じるのです」
スミス氏は現在、米同時多発テロ事件が発生した2001年9月11日当日に発売された自身のアルバム「Worship」の発売20周年を記念して、アルバムの再録と再販に向けた準備を進めている。
このアルバムは、スミス氏にとって最も売れたアルバムであり、「Draw Me Close」「Let it Rain」「Breathe」などのヒット曲が含まれている。今回は収録曲を60人編成のオーケストラでレコーディングしたという。
「私にとってはベスト5に入る作品です。泣けてきます」とスミス氏。アルバムの最後には「Sing Again」という隠しトラックがあるが、これは「ポストコロナの曲」だという。
「この曲はぜひ聞いてほしいです。人々を本当に励ますものだと思います」と言い、歌詞を紹介してくれた。
この不毛な肺は 再び呼吸するだろう
苦しみを通して 私たちは主の手のひらの上でもっと強くなる
夜のビーコンのように 希望は空を照らす
互いに助け合い続けることで、私たちは光をともす者になる
「光をともす者たちは希望です。そして、それは教会なのです」とスミス氏は続けた。「私たちには、これがあります。私たちはキリストの希望をともす者です。それはこの世が、何が何でも聞く必要があるものです。それがこの曲の主題です」