女子学院初代院長、日本キリスト教婦人矯風会初代会頭などを務めた女性教育家・活動家の矢嶋楫子(かじこ)の生涯を描いた映画「われ弱ければ 矢嶋楫子伝」が来年1月に公開される。原作は三浦綾子の同名小説。日本最高齢の女性映画監督として知られる「現代ぷろだくしょん」の山田火砂子(ひさこ)監督(89)がメガホンを執り、撮影が今年8月から始まる予定だ。自身もクリスチャンである山田監督は、これまでの作品で現役牧師を含め多くのクリスチャンを出演させており、本作でも外国人宣教師役などでキャストを募っている。
波瀾万丈な矢嶋楫子の生涯
楫子は、明治維新から30年以上前の1833(天保4)年、現在の熊本県益城町の旧家に生まれた。1男7女の6女で、このうち楫子を含む姉妹4人は女性の地位向上に尽力し、男女共同参画社会の礎を築いたことで「四賢婦人」と呼ばれている。
地元の武士に後妻として嫁いだ楫子は、自身も3人の子どもをもうけるが、酒乱の夫の暴力に苦しむ。命の危険に何度もさらされ、ついに自ら離縁を申し出る。当時は、女性から離縁を申し出ることは考えられない男尊女卑の時代だった。3人の子どもを残して単身上京。時はちょうど明治元年で、東京に向かう船上で「かつ」から「楫子」へと自ら改名した。
猛勉強して40歳で小学校の教師に。だが、10歳以上年下の妻子持ちの書生と恋に落ち、子どもを出産。罪の意識にさいなまれる中、楫子を懐深く受け入れてくれた米国人宣教師のマリア・ツルー、そして聖書との出会いを通して洗礼に導かれるのだった。
楫子の心を動かした聖書の話は、映画のハイライトの一つでもある。姦淫の現場で捕らえられた女の話や、家来の妻との間に子どもをつくり、家来を故意に戦死させたダビデ王の話など、きれいごとばかりが書かれていると思っていた聖書の中に、楫子は自身と同じ過ちを犯す罪人の姿と、その罪人を赦(ゆる)す神の愛を見いだす。
受洗後、婦人参政権や禁酒、公娼制度の廃止、一夫一婦制の確立などを求める社会運動を本格化させ、仲間と共に矯風会を設立。年老いても活動はとどまることなく、74歳にして初めて渡米。89歳の時に出席した史上初の国際軍縮会議「ワシントン会議」では、ウォレン・ハーディング米大統領(当時)から記念の花器を贈られ、93歳で生涯を閉じるまで、男女平等な社会を目指して果敢にその人生を走り抜いた。
賛美歌音源、キャストを募集
山田監督が新作で楫子を取り上げることを決めたのは、前作「一粒の麦」で取り上げた近代日本初の女医、荻野吟子(1851~1913)が最も尊敬していた人物の一人だったからだ。「吟子の映画を作らなかったら、楫子にも出会わなかったと思う」。書棚にあった三浦綾子の原作小説を読み、その生涯を知ってからは楫子にほれ込み、すぐに映画化を決めたという。
映画では賛美歌が流れる場面もあり、山田監督は、教会の本物の聖歌隊が歌う賛美歌を音源に使いたいと考えている。また、女性の外国人宣教師役数人のほか、楫子が教える小学校の生徒や、女子学院の前身である新栄女学校と桜井女学校の女生徒役などのキャストも募集している。
「女性の人権などない明治・大正時代にこんなに行動した女性がいたことを知ってほしい」と山田監督。「私が撮影してきた作品の中で一番キリスト教が深く関わっている。教会にとっても良い宣伝になるはずなので、ぜひご協力いただきたい」と呼び掛けている。
映画には3月現在、日本キリスト教婦人矯風会や日本クリスチャン女性禁酒同盟(矯風会JWCTU)、女子学院のほか、作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんら60以上の団体・個人が後援や賛同で名を連ねている。
一部が映画の製作費に当てられる「製作協力券」(1枚1200円)の販売も行っており、購入すれば映画製作に協力できるだけでなく、完成後には1枚1人分の入場券として使用できる。製作協力券所有者のみが入場でき、出演俳優が舞台あいさつをする試写会は、来年1月に熊本、東京、札幌の3カ所で開かれる予定だ。
また、1口1万円からの製作協力金も募っている。寄付者は上映会場で販売される映画パンフレットに名前が記載される。10万円以上の寄付か協力券100枚以上の購入であれば、映画のエンドクレジットに名前を掲載することも可能だ。
映画で使用する賛美歌は、楫子が聖書を読みながら天地の創造主なる神に思いを馳せている場面で、教会から流れてくるもの。楫子はこの賛美歌の歌声に導かれて教会へ足を向ける。選曲は応募者の自由。賛美歌音源やキャストの応募、協力券・協力金に関する詳細は、現代ぷろだくしょん(住所:〒161-0034 東京都新宿区上落合2-22−23 上落合ハイツ409号、電話:03・5332・3991、メール:[email protected]、ホームページ:https://www.gendaipro.jp)まで。協力券・協力金の振り込みは、郵便振替(00170-8-697571、協力券の場合は通信欄に枚数を記載)か、銀行振込(ゆうちょ銀行 019店 当座 0697571)で。名義はいずれも「矢嶋楫子の映画を作る会」。