神道や仏教、キリスト教を含む宗教諸派でつくる世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会(植松誠理事長=日本聖公会首座主教)は1月28日、立正佼成会・法輪閣(東京都杉並区)で第30回理事会・第19回評議会を開催し、気候変動への非常事態を宣言することを決議した(宣言文は記事下部)。
宣言では「地球環境がもはや元に戻らない危険水域にすでに入っているという切迫感」があるとし、「一刻の猶予も許されない状況」「課題の解決に向け、私たちは歴史上、前例のない規模とスピードで取り組む必要がある」と訴えている。
WCRPは昨年8月、ドイツで第10回世界大会を開催。そこでも125カ国から集まった約千人の宗教者が、気候変動に対する緊急行動について討議し、各自のネットワークを駆使して、さまざまなレベルで祈りと行動を早急に実施していくことを誓い合った。
宣言は具体的に、個人、宗教コミュニティー・教団、政治、経済の各レベルにおける行動目標を設定。その上で、これらの行動を実践するための「地球に生かされているという自覚を育む教育の充実」を掲げている。宣言は「この自覚こそが気候変動非常事態に立ち向かう精神的な支柱」と強調している。
こうした「気候非常事態宣言」(Climate Emergency Declaration:CED)は、気候変動の危機的な状況を受け、世界各地で国や自治体、大学、各種団体が発表している。国では、英国やポルトガル、カナダ、フランス、アルゼンチンなどが宣言しており、CEDのサイト(英語)によると、6日までに26カ国で1348の自治体が宣言している。日本では、昨年9月に長崎県壱岐(いき)市が国内の自治体としてはで初めて宣言。その後、鎌倉市や長野県、堺市などが続いた。
宗教関係では昨年9月、環境問題に取り組む日本の宗教者と研究者による「宗教・研究者エコイニシアティブ」(RSE)がシンポジウムを開催し、「環境と気候の非常事態宣言」を発表している。(関連記事:日本の宗教者と研究者が「環境と気候の非常事態宣言」 対応の遅れに高まる懸念)
WCRP日本委による宣言は以下の通り。
WCRP気候変動への非常事態宣言
慈しみの実践:共通の未来のために私たちは、人類家族が背負っている課題を深く認識している。それは、地球環境がもはや元に戻らない危険水域にすでに入っているという切迫感でもある。気候変動、大気汚染、水不足、森林減少、土壌劣化、生物多様性の喪失、海洋汚染など人類家族が負う重荷は日を追うごとに深刻なものとなり、一刻の猶予も許されない状況である。これらの課題の解決に向け、私たちは歴史上、前例のない規模とスピードで取り組む必要がある。
2019年8月ドイツ・リンダウにおいて125カ国1000名の宗教者らが集った第10回WCRP世界大会で、私たちは、『慈しみの実践:共通の未来のために』をテーマとして、気候変動に対する宗教コミュニティの緊急行動について討議した。ある先住民族は、「母なる地球が苦しめば、人間も苦しむ。人間が苦しめば、母なる地球も苦しむ」と語り、環境破壊に対する危機意識を高め、霊性にもとづく宗教者の行動が必要であることを訴えた。
そして、世界の宗教コミュニティは、気候変動非常事態に立ち向かうべく、それぞれが持つネットワークを幅広く駆使し、地域、国、世界レベルにおける祈りと行動を早急に実施していくことを誓い合った。WCRP日本委員会は、WCRPの国際ネットワークとともに気候変動非常事態の認識を共有し、以下の実践を展開する。
1. 個人のアクション
(1)もったいない精神、少欲知足にもとづいたライフスタイルの確立
(2)第8回ACRP仁川(インチョン)大会宣言で謳(うた)われた各地の植林プロジェクトへの参画2. 宗教コミュニティ・教団のアクション
(1)宗教施設の森林保護
(2)宗教施設のエネルギー、建物、物品、交通手段等における環境負荷軽減3. 政治に対するアクション
(1)国際社会が約束した気温上昇を1・5℃に抑える「パリ協定」達成に向けて、各国政府に対しての積極的な働きかけ
(2)選挙における「パリ協定」達成への呼びかけ4. 経済に対するアクション
(1)環境保護につながる消費行動、投融資、商取引の実施
(2)大量生産、大量消費、大量破棄という経済サイクルに対する継続的な警報の発信5. 地球に生かされているという自覚を育む教育の充実
これらの行動を実施すべく、私たちは地球に生かされているという自覚を持つ人材育成・教育の重要性を訴える。この自覚こそが気候変動非常事態に立ち向かう精神的な支柱となると信じる。以上
世界宗教者平和会議(WCRP):諸宗教の連帯によって平和活動を推進する国際組織。1970年に39カ国から宗教者約300人が京都に集まり、第1回世界大会を開催して発足した。国連経済社会理事会(ECOSOC)に属し、99年からはNGOの最高資格である総合協議資格を取得している。現在、世界90カ国以上にネットワークを持つ。日本委員会は72年に日本宗教連盟の国際問題委員会を母体として発足。2012年からは公益財団法人として活動を展開している。