マイク・ペンス米副大統領が、19日から予定していたエジプトとイスラエルの訪問を、来年1月中旬に延期した。ペンス氏のイスラエル訪問については、ドナルド・トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言したことで、パレスチナ自治政府などが反発していた。ただし米CNN(英語)によると、ホワイトハウス当局者らは、訪問延期は米上院で20日に可決された税制改革法案のためで、中東地域における反発のためではないとしている。
米政治専門誌「ザ・ヒル」(英語)によると、トランプ氏のエルサレム首都宣言は、エルサレム旧市街にある聖墳墓教会の管理人も批判しており、ペンス氏が同教会を公式に訪問することは拒否すると発言した。この教会は「イエスの墓」があったとされる場所に立つ重要な教会だが、鍵を所有する管理人がイスラム教徒であることは、あまり知られていない。
「私は、米国副大統領のマイク・ペンス氏を聖墳墓教会に公式に歓迎することは絶対に拒否します。彼の訪問中は教会にいないようにするでしょう」。そう語ったのは、イスラム教徒のアディーブ・ジュデさん(53)。ジュデさんの家系は、エルサレムでも有名な一族で、800年以上前から聖墳墓教会の鍵の管理を任されている。この取り決めは、1187年に十字軍から聖地奪還を果たしたイスラム教徒のサラディン(アイユーブ朝の創始者)の時代にまでさかのぼる。ジュデさんは、ロイター通信(英語)に「実は、聖墳墓教会の鍵を管理するのは、イスラム教徒にとっては大変名誉なことなのです」と話す。
鍵の管理はジュデ家だけでなく、エルサレムで最も古いイスラム教徒の一族とされるヌセイべ家と共同で行われている。鍵は長さ約30センチ、重さ約250グラムの大きなもので、両家は教会の扉を毎日開け閉めする日課を先祖代々守っている。
重要なキリスト教の教会の鍵を、なぜイスラム教徒の2つの一族が何世紀にもわたって管理しているのか。その起源については諸説あるが、イスラム教がキリスト教よりも優位にあることを主張するために、サラディンが鍵の管理を任せたのではないかと考える歴史学者たちもいる。これは確かに、現在のエルサレム旧市街におけるイスラム教優位の雰囲気とも合致する。エルサレム神殿の跡地である「神殿の丘」には、ユダヤ教の聖地「嘆きの壁」もあるが、イスラム教の聖地である「岩のドーム」や「アルアクサ・モスク」もある。また、旧市街のさまざまな場所では、教会の鐘の音をかき消すかのように、祈りを呼び掛けるイスラム教の放送が鳴り響く。
ジュデさんによると、現在使用している鍵は800年前のもので、長年使用されて壊れてしまった合鍵もあったという。「この鍵のことを知ったのは8歳の時でした。父から息子へと受け継がれたものです。この仕事を30年続けていますが、聖墳墓教会は私のもう1つの家だと感じています」と言う。
聖墳墓教会は、イエス・キリストの墓があった場所、あるいはイエスが十字架にかけられたゴルゴタの丘(カルバリーの丘)があったと考えられている場所に立つ(いずれも諸説ある)。ローマ皇帝コンスタンティヌス1世が4世紀初頭、ゴルゴダの丘があった場所に教会を建てるよう命じて建てられた。毎年何十万人もの巡礼者が訪れ、内部にはエディクラと呼ばれる小宮があり、その中には「イエスの墓」と考えられている石墓がある。このエディクラは現在、3億円超をかけて約200年ぶりの修復作業が行われている。
ギリシャ正教会(エルサレム総主教庁)、アルメニア使徒教会、カトリック教会、コプト正教会、シリア正教会が管理に関わっており、教会内部には各教派が独自に管轄する区域が存在する。これらの管理をめぐって、しばしば緊張が高まることもある。しかし、キリスト教学者のイスカ・ハラニ博士は、聖墳墓教会の鍵をイスラム教徒の一族が管理することが、ある程度宗教間の平和の維持に寄与していると考えている。「この教会は確実に共存のモデルなのです」と言う。
ペンス氏は当初、エジプトのアブデルファタハ・アル・シシ大統領、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談し、トランプ政権の方針を説明するほか、イエス誕生の地ベツレヘムや「嘆きの壁」を訪れる計画だった。パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長との会談も予定していたが、トランプ氏の決定に対する反発から拒否されていた。CNNによると、延期されたペンス氏の訪問は来年1月14日の週になる予定で、エジプト、イスラエルの他に別の訪問先も追加される可能性があるという。