過激派組織「イスラム国」(IS)が「首都」としていたシリア北部の都市ラッカを、クルド人の民兵部隊を主体とする「シリア民主軍」(SDF)が制圧した。ISの最大拠点であったイラク北部の都市モスルも7月に解放され、ISはこれで2大拠点を両方とも失ったことになる。
ISは一時、イラクとシリアにまたがる広大な地域を支配したが、次々に支配地域を失い、ラッカも、「シリア民主軍」が今年6月から本格的に攻略を始め、4カ月で全域を制圧した。その中でISは幹部や戦闘員の多くが死亡し、組織の資金も減少して弱体化が進んでいた。ラッカ陥落により、ISの主張する「イスラム国家」は事実上崩壊したことになる。
イラクやシリアを訪れ、取材を重ねている報道カメラマンの横田徹氏に話を聞いた。
――ラッカが陥落するまでの経緯を簡単に教えてください。
2014年上旬にラッカを制圧して、当時のISIS(アイシル)の首都と宣言しました。同年6月にイラク北部のモスルなどの都市を占拠して、「イスラム国」の樹立を宣言しました。8月頃から米軍を主体とした有志連合の空爆がラッカや他のIS支配地域で開始されました。今年に入り、米軍の地上部隊の支援を受けたクルド人部隊がラッカ攻略を本格的に始めました。その結果、徐々にラッカは解放され、日本時間の10月16日に解放されたのです。
――今後、ISはどうなっていくと予想されますか。
ISはイラク国内で存続する可能性が大きいですね。陥落したモスルも含めて、ISを支持するイラク住民は多いのです。先日、イラク軍がイラク北部のキルクーク市を一方的に占拠してしまい、今後はイラク政府とクルド自治政府との間で一触即発の緊張状態が続くことが予想されます。今の状況でイラク軍がISを完全に壊滅するのは難しいかと思います。
――シリアの内戦は、今後、収束に向かうのでしょうか。
シリア内戦においては、ISは大きな脅威ではなく、ロシアとイランが支援するアサド政府と反体制派、クルド人などの問題なので、ラッカが陥落したところで戦争の終結になるとは思えませんね。
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ラッカはもともと、キリスト教都市「カリニコス」だった。6世紀にはシリアの修道院の中心地で、「聖ザアカイ修道院」と、正教会のアンティオキア総主教座があった「柱の修道院」が有名だったが、639年にイスラム帝国によって陥落した後は「ラッカ」と改名された。現在、シリアは総人口の約90パーセントがイスラム教、約10パーセントを正教会などが占めている。
シリア内戦のため、シリア国内に主教がいない状況が4年前から続いていたが、今年8月19日、モーリス・アムシーフ大主教の就任式がシリア北東部の都市ハサケで行われた。アムシーフ大主教の着任は、シリア国内で苦闘しているキリスト教徒にとって新たな希望となっている。
ISの支配下にあったシリア北部では、特にキリスト教徒などの少数派が大量虐殺の対象となり、強姦(ごうかん)や誘拐されることも頻繁に発生していた。
アムシーフ大主教が管轄するのは、シリア北部から東部にかけてのジャズィーラ地方とユーフラテス川沿岸地域全体。ハサケは現在、クルド人勢力が支配しているが、隣接するデイルエッゾル県はISの支配下にある。アムシーフ大主教はISから解放されればすぐにでも訪問すると話している。