以前、留岡幸助の生涯を描いた「大地の詩(うた)―留岡幸助物語ー」という映画を見ることができました。この作品の監督は山田火砂子(ひさこ)さんという方で、数多くの素晴らしい映画を世に送り出している方です。留岡幸助という人が存在していたということすら、知らないという人が多いと思いますが、日本の社会福祉の先駆者として忘れてはならない人であります。そのような人々に光を当てておられるのが、山田火砂子監督です。
映画が上映される前に、彼女自身があいさつに立たれました。そして、どうしてこのような映画を製作しているか、その理由を述べられました。山田火砂子さんには障がいを持つ娘さんがいらっしゃいます。その娘さんが子どもであった頃、他の子どもたちからばか扱いされて、親子ともども心が傷つけられました。山田さんはそのような社会を変えたいと思って、社会派映画を作り続けてこられたのだそうです。
賀川豊彦の生涯を描いた「死線を越えて」や、孤児の父として知られる石井十次、日本で初めて障がい児のための施設を造った石井筆子など、日本の福祉の基礎を築いた人々に光を当ててこられました。これらの作品は商業ベースには乗らず、自治体などが上映しているので、普通の映画館などでは見ることができません。山田監督はこのような映画を作るときは、まずいろいろな団体から寄付を募って、予算が集まってから作るのだそうです。
私はこういった山田監督の映画製作の姿勢にいたく感動しました。決して商業主義ではなく、こういった人々がいたということを日本人が忘れないために、そして、日本の社会が良い社会になるために、彼女は自分のできることを最後まで貫こうとしておられます。
現在、山田監督は84歳になります。とても驚きます。使命感に燃えて、まだまだ良い作品を次々と作っていこうという意気込みにあふれています。彼女の出発点が自身の娘さんであったということを思うとき、人生において苦しいことは必ずしもマイナスではなく、むしろ、そこにこそ飛躍のための契機があるということを、あらためて思わされました。
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