JR高知駅から歩いて5分くらいの所に江ノ口カトリック教会があります。
私が高校生であったとき、友達に誘われて日曜日の午後、そこで行われていた「杉の木会」という会に参加していました。バートン神父さんや、ライリー神父さんという方々が市内の中高生を集めて英語や西洋思想を教えてくれていました。そこでさまざまな神父さんやシスターに出会ったのが、私の生涯に少なからず影響を与えました。
中でもバートン神父さんは音声学者でもあられて、完璧な日本語をしゃべっていました。そして私たち中高生に英語の発音をみっちり教えてくれました。後に大学でも音声学を学びましたが、あの時のバートン神父さんのように日本人に分かりやすく英語の発音を教えてくれた方はいませんでした。しかも受講料はわずか1カ月500円という、ただ同然のようなものでした。日曜日の午後約3時間くらい、いろんな角度から英語を教えてくださり、また大学の先生の講義があり、その後は中庭でバスケットボールをしたりバレーボールをしたりして、他の学校の生徒たちと交流する機会もありました。
当時の私たちにとっての「杉の木会」は、鎖国時代の長崎で蘭学を学ぶ侍たちに似たようなものでなかったかと思います。ネイティブの英語のスピーカーから直接英語を学ぶだけでなく、音声学の専門家や西洋思想の専門家から講義を受けることができたのでした。当時、私の通っていた学校には英語のネイティブスピーカーは1人もいませんでした。ですから、聞くもの見るものみな珍しく、興味深々でありました。バートン神父さんたちはこれを通して伝道しようというのではなく、高知の若者たちに広い世界に触れてほしいという気持ちではなかったかと思います。
そういった雰囲気の中で、何も知らない私は自然とキリスト教の空気に触れていたのだろうと思います。バートン神父さんの底抜けに明るい善良さと紳士的な振る舞いに触れているうちに、また、シスターたちの清らかな心に触れているうちに、私の中にいつの間にか福音の種が蒔かれていたのでしょう。あの方たちの献身に深く感謝しています。
あれから半世紀がたつ今、この教会のインドから来られている神父さんたちと同じ教誨師(きょうかいし)としてご奉仕させていただいていることに、神様の不思議なご摂理を感じます。
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