9月27日に始まった「あどぼの学校」の中心メンバー、加藤良太さん(40)は、同志社大学を卒業後、サラリーマンを経て国際協力NGO(非政府組織)で働き、現在はNGOと外務省のODA(政府開発援助)政策に関する協議会のコーディネーターを務めている。関西学院大学の神学部や同志社大学で、「キリスト教と社会活動」をテーマにした講義を行ったこともある。また、日本基督教団同志社教会役員として教会の奉仕もしている。加藤さんに話を聞いた。
Q、関西NGO協議会は、どのような活動をされていますか?
関西の45の国際協力を主としたNGO・NPO(民間非営利団体)の連合組織です。YMCAなどキリスト教系の加盟団体も多いです。事務所は大阪梅田の日本聖公会大阪聖パウロ教会にありますし、代表理事はキリスト教福音派系の日本国際飢餓対策機構の方、事務局長は日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)のスタッフ出身で日本基督教団の牧師もされている方です。組織としてキリスト教色を打ち出しているわけではありませんが、参加団体やメンバーは、クリスチャンの方も多いですね。
Q、なぜ今、アドボカシーなのでしょう。
国際協力の分野では、アドボカシーの重要性が比較的早くから認識されてきました。途上国の現地で活動していると、日本の政府援助の力はとても大きい。でも、援助がかえって状況を悪くしていることも多いんです。そこで現地の人から「ここでの援助よりも、東京に行って現場の事情を詳しく説明して改善してほしい」という声を受けることがたびたびありました。その中で必然的にアドボカシーの重要性を痛感しました。
Q、普段はどんなことをされていますか?
例えば現在年3回、NGO・外務省定期協議会「ODA政策協議会」というものが行われています。そこでNGOと外務省の間で議題を調整して決定すると、外務省の政務三役クラスが出席する本会議が行われます。これはただ議論するだけでなく、こちらから議案やアジェンダをしかけてその成果を実際の政策プロセスに反映させていくという協議会です。
NGO側からの政策提案や注文を行いながら、外務省の実務担当者と一般市民・NGOが意見交換を行って練り上げていく、いろんな段階でのアドボカシーに関わる活動をしています。
また、ОDA政策協議会の主な対象は、①ODA・国際協力の各種政策・ガイドラインですが、協議会の成果を下敷きにしながら、②TPP(環太平洋連携協定)に関する市民・政府間対話、③女性・平和・安全保障に関する行動計画策定プロセス、④自治体における総合計画策定プロセスなど、他の分野の政策でも成果を挙げてきました。
Q、そういうプロセスがあること自体、知りませんでした。
実はこの協議会は公募で、NGОならばどこでも参加できるんですね。これは外務省のHPに行けば、全部逐語で公開されています。そうなると、外務省もそうだけれど、われわれNGОの側も、きちんとやらなければとプレッシャーも緊張感もあるわけです。
外務省も最初は非常に閉じられていた。それが1992年のリオデジャネイロの地球サミットをきっかけに変わってきました。国際協力NGОでも、大きな団体と小さな団体の間や、日本と現地の人の意見や声も一緒ではない。その中で対立が出てくることもあります。別のNGОの代表の人に怒鳴られて、外務省の人に慰められながらアジェンダを練り上げていくなんていうこともよくあります(笑)。
でもそういう対話の中で国際協力NGОの政策や要求を反映させていくことができる。開かれた公正で透明度や参加度の高い政策プロセスができていくのだと思います。そのために必要なのがアドボカシーなのです。
Q、教会の役員をしながら、NGOスタッフとして働かれていて感じられることはありますか?
教会とNGOやNPO、市民活動の間に距離があると感じます。私は教会が社会活動団体になればいいとは思いません。でも、実際には関西NGO協議会の参加団体にはキリスト教系組織も多く、メンバーの方にはクリスチャンも多い。そういう団体が何をしているのかをもう少し教会につなげて、活動報告や交流、援助のきっかけがあったらいいと思いますね。
正直言って、私の所属する日本基督教団などメーンラインの教会は、福音派教会の活動を斜めに見て距離を置いているところがあると思うんです。でも、例えば福音派のバックグラウンドがある日本国際飢餓対策機構は、関西を中心に中小企業を細かく回って支援や協力を得ながら地道な活動をしています。むしろメーンラインの教会のほうが、残念ながら活動が教会から離れてしまっていることを感じます。
Q、教会って、「祈り」と「社会活動」を2項対立にしてしまうような傾向を感じることがあります。
そうですね。例えば年に何度か、そのような活動を覚えて献金をしていただき、活動のために祈っていただけたらと思うんです。私が時々参加するエキュメニカルな祈りの場であるテゼの歌を用いた祈りの集いでは「とりなしの祈り」をささげて、今この瞬間に苦しんでいる人のために祈ります。
日曜日の礼拝で毎週一つ一つ具体的な活動を覚えて教会で祈っていただき、少し献金を添えていただけたら、とても心強いと思うんです。同じキリスト者に祈ってもらっていることで、われわれの活動は一人ではないと感じることができるというのは、キリスト教系のNGO・NPOの大きな強みではないかと思うんです。教会にNGO・NPOの活動を知ってもらうと同時に、「祈りの力が持つリアリティー」をもっと知ってほしいと願います。
Q、10回シリーズの講座では、NGО・NPOの実際の事例や、社会企業、地方自治、メディアの役割など内容も盛りだくさんで、とても興味深いです。
京都には「いらち、いちびり、いっちょかみ」という精神があるんです。
Q、わかりません(笑)。解説を・・・。
「いらち」は、じっとしていられない人、せかせかと動き回る人。「いちびり」は、お調子者、目立ちたがり屋。「いっちょかみ」は、なんでもかんでも口を挟む人。
最近、ある国際的に著名な活動の方がアドボカシーとは何かと問われて「同じことを何十回でも何百回でも言い続けることだ」と答えていて、とても感銘を受けたんですよね。本当にそうだと思います。「いらち、いちびり、いっちょかみ」 の精神で、「社会のつなぎ役」として、NGО・NPOや個人の方が民主主義を考えるためにも、アドボカシーを学んで考えていただくために、一人でも多くの方に参加して考えるきっかけになっていただけたらと思っています。
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「あどぼの学校」は、来年2月まで全10回にわたって開かれる。1回だけの参加も可能で、受講料は1000円(学生800円)。詳細は「あどぼの学校」運営委員会(電話・FAX:0584・23・3010、メール:[email protected]、ホームページ)まで。