【CJC=東京】中国政府がバチカン(ローマ教皇庁)の承認なしに叙階した「違法」司教の1人が、この春節(中国の正月)の間に台湾・台北市を訪問したことに、台湾カトリック教会が困惑している。バチカンが、中国政府の一方的な叙階を認める用意ができているのでは、との推測に火が着いたとするアジア専門のカトリック通信「UCAN」の報道を紹介する。
台湾を訪問した中国北部・安徽(あんきょう)教区のヨセフ劉新紅(リュウ・シンホン)司教は、2006年5月にバチカンの承認なしに叙階された。劉司教は4日間の訪問を2月26日に終えたが、台湾訪問中に現地の内外宣教者と会談している。同司教は台北市に隣接する新北市の神学校「聖博敏神学院」に滞在した。同神学校には中国本土の司祭、修道女、神学生多数が学んでいる。しかし台湾の信徒は劉司教が、バチカン非認可の中国本土司教8人の1人だとは気づいておらず、台北のヨハネ洪山川(ホン・シャンチュアン)大司教はUCAN通信に、訪問について事前には知らされなかったと語っている。
訪問は、劉司教がイエズス会のマルコ・ファン神父と、外国人神父や台湾人神父も一緒に食事している光景を、ある女性信徒がフェイスブックに投稿したことで、初めて明らかになった。「訪問をフェイスブックの写真で初めて知った」と洪大司教は語っている。
劉司教は、台湾滞在中、他の聖職者とミサを公式に共同司式することはなかった、と語っている。ただ私的にミサを司式した、とUCAN通信に語っており、これはバチカンの怒りを買う可能性がある。「私は病床にある司祭を訪問したのだ」と劉司教は安徽教区に戻ってから語っている。ファン神父は、本土の神学校で劉司教を教えたことがある。ただ自分が劉司教を招請したのかについては言明を避けている。
「違法」中国人司教と海外の教会関係者との会合は、激しい論議を呼ぶものと考えられる。北京政府による一方的任命の正当化とみられ、バチカンの権威を危うくすることになるからだ。昨年4月、中国本土の昆明教区のヨセフ馬英林(マ・インリン)「違法」司教が、中国政府が手配した宗教代表団の一員として台湾を訪問している。しかし同司教は台湾南部の寺院で仏教僧侶と会見しただけだった。
劉司教の訪問は、共産党が1949年に中国で政権を獲得して以来初めて相互関係を確実なものにすることを目指して昨年に協議が再開され、バチカンと「北京」の間の改善はされたがなお微妙な関係の時期に行われた。「劉司教は安易に台湾を訪問できたわけではない。何か背後にあるに違いない」と中国の教会観測筋は、問題の微妙さを理由に、匿名で語った。「ローマ(バチカン)は、『違法』司教8人という重要問題を、中国政府への応答として解決しようとしているのかもしれない」
公式にはバチカンは、重要課題である司教任命権を「北京」(中国政府)が諦めるべきであり、また信教の自由に関するこれまでの政策改善を要求するという立場を維持している。しかしここへ来て、バチカン内部の状況が変わり、最近の窮状脱出の方法として叙階について妥協することにしたとの推測が盛り上がっている。
バチカンの公式通信「フィデス」のジアンニ・バレンテ記者が、複数の本土司教と行ったインタビューは、香港のヨセフ陳日君(チェン・リージュン)枢機卿など北京に対し柔軟姿勢を取ることに反対する関係者からの批判を呼んでいる。教会観測筋は「中国・バチカン関係をめぐって、ローマと中国の外側の教会との間に異なる二つの路線が出てきたことは明らかだ」と語っている。