東日本大震災から4年。あの時、多くの命と一緒にさまざまな物が押し流された。家、財産、夢、幸せ、それらの実現に必要なあらゆるもの。それらを救うために当時、さまざまな人が活動をした。これはその地で生き抜いて出た、2つの芽の話。インタビューに応えてくれたのは刈屋咲良(さくら)さんと馬場優奈さん。共に21歳の2人は当時高校2年生だった。
咲良さんは岩手県釜石市出身。家は一階部分が津波で被害を受けたため、震災発生後3日間は学校で過ごした。自宅に帰ってからもライフラインが復旧するまでの一カ月間は、山から水をくんだり、カセットコンロで炊事したり、ろうそくの明かりで生活をしていたという。
優奈さんは宮城県石巻市出身。雪の中、下校した直後に自宅で被災した。「病院に勤めていたお母さんから、津波が来るから逃げなさいというメールを受け取って、高台の叔母の家に逃げました」と当時のことを話す。職場にいた両親とはそれ以降連絡が取れなくなり、家族の消息がつかめない日々が続いた。しかし、家族が帰ってくるのを信じて、津波で被害を受けた家の後片付けをした。結局、家族とは無事に再会し、不便ながら学校も再開した。その後、2人とも3年生に進級。しばらく後に「東北リリーフホームステイ」の話を聞いたという。
「東北リリーフホームステイ」とは、東京に本部を置くインターナショナルチャーチ「ライフハウス」(旧称ジーザスライフハウス)が主催したプロジェクト。被災した生徒・学生たちを対象に、夏休みの数週間、無料の海外ホームステイに招待する働きだ。2011年と12年の2年間で約300人を海外に送り出したプロジェクトだが、当時は立ち上げ段階で「今はそんなことを考えている場合じゃない」という声や、「無謀じゃないか、突飛過ぎないか」という声もさまざまな方面からあったという。
「朝のホームルームで先生が、『ホームステイに興味のある人は無料で行けるから言って』って話をしました」と咲良さん。もともと英語が大好きだったが、釜石市には提携している姉妹都市がなかったためすぐに応募した。しかし、当時吹奏楽部の部長を務め、コンクール入賞を目指していた彼女は、コンクールとホームステイをてんびんにかけなくてはならなかった。「今思えば運が良いのか悪いのか・・・。コンクールの成績は振るわず、終わった次の日にオーストラリアに旅立ちました」と笑いながら語る。
一方、優奈さんは「学校が始まって、英語の先生から教会主催のホームステイの存在を知らされました。先生たちも『学校は関知してないし、教会の人たちがどんな人かも分からない』と言われたし、私も『無料でなんてそんなうまい話が・・・』というのが正直な感想でした」と振り返る。しかし、母の後押しを受け、ハワイに行くことを決断した。
咲良さんのホームステイ先のシドニーでは、観光しながら英語を習得するプログラムが組まれていた。さらに日曜日は現地にあるメガチャーチ、ヒルソング教会の礼拝に参加。「初めて行ったのは平日に行われたシスターズフット(女性を対象にした集会)。普通の音楽が好きな女の子だった私は、格好良いバンドを見て日曜日の日本語礼拝にも参加しました。賛美の時間もメッセージも、自分の現状とかとマッチして泣いてしまったんです。そこでクリスチャンになりたいと思いました」と当時を振り返る。
ハワイに行った優奈さんは、日曜日にホストファミリーが教会に行くので渋々ついて行ったと語る。「教会って、行ったらステンドグラスがあって、結婚式場みたいなイスが並んでいて、おじいちゃんやおばあちゃんばっかりで、『アーメン! ハレルヤ!』とか良く分かんないことを叫んでいる場面をイメージしていた」と言う優奈さん。しかし、最初の印象は「何ここ!?」という驚きだった。
「若い人がジャンプして、踊っている場所だとは思わなかった。でも、ホストファミリーが今まで会ってきた人たちと全然違って、本気でケアしてくれたし、だからこそ、この人たちのように変わりたいし、この人たちとずっと関係を築きたいって思った」と言う。結局、優奈さんは3週間の滞在期間中に洗礼まで受けた。
しかし、日本に帰ってきた当時は近所に教会もなく、具体的に何をして良いか分からなかったという。そして咲良さんは就職のため、優奈さんは進学のために上京し現在の教会に通うようになった。
それから3年――。咲良さんは幼稚園の先生という新しい夢を得て、今は専門学校に通っている。毎週教会に通うようになって、「全然気持ちの持ちようが違いますね。ネガティブな誘惑との戦い方を学んだし、多くの人と一緒に励まし合って成長できた。『クリスチャンじゃなかったら、今何しているんだろう』って考えちゃいます」と言う。「私は当時何に頼ってよいか分からずに悩んでいた。ホームステイに行って、神様と出会わなかったら今は無い。だから一人でも多くの人に神様を伝えたい」と話す。
優奈さんは大学でマーケティングを専攻している。「もっと早く神様を知りたかったって思えるほど、今の人生最高。『儲ける』って『信じる者』って書くように、皆で神様を信じて助けていけるような道を歩みたい」と話す。
「復興までの道は遠い」とある人は言う。まだ何も終わっていないとある人は嘆く。しかし2人の目に悲壮な色は見えない。聖書の中でイエスは、「わたしは世の光である。わたしに従う者は暗闇の中を歩かず、命の光を持つ」(ヨハネ8:12)という言葉を残している。若い2人の目にはイエスが示した光が見えているに違いない。