バラク・オバマ米大統領が国家朝餐祈祷会で語ったスピーチに対する批判は、イデオロギー的な面のみに集中しているわけではない。保守派にスピーチを支持する人がいる一方、一部のリベラル派からはスピーチに対する批判が上がっている(関連記事:オバマ米大統領、国家朝餐祈祷会に出席 宗教を悪用する勢力に抵抗する3つの原則語る)。
1. 「イスラム国(IS)」と、十字軍や宗教裁判を比較するのは時代遅れ
米NBCの日曜討論番組「ミート・ザ・プレス」では、保守派のコラムニストであるデビッド・ブルックス氏がオバマ大統領のスピーチを支持する一方、米MSNBCのホスト役でリベラル派のアンドレア・ミッチェル氏は反対の意見を表明し、オバマ大統領は十字軍について話すという間違いを犯したと語った。
「一つ目に、どのような文脈においても『十字軍』という言葉を使うのをやめるべきです。それは悲惨過ぎるからです。そして、(ISに拘束されていたヨルダン軍の)パイロットが生きたまま焼殺された動画が公開された後の週に、祖先の罪という哲学的な問題へと後退するべきではなかったのです。まずは目の前にある問題に取り組むべきですし、信仰について話すときは十字軍から離れなければなりません」「(当時のローマ教皇ウルバヌス2世が第1回十字軍を呼び掛けた)1095年に戻ることは決してできないのです」と、ミッチェル氏は語った。
同じくリベラル派の、米ワシントンポスト紙のコラムニスト、ユージーン・ロビンソン氏も9日の論説記事で、同様のことを指摘した。
「しかし、スペインの宗教裁判は500年前に、そして最初の十字軍は約千年前に派遣されたことには言及するべきです。世界は当時よりも変化していますし、人類の知識もそうです。たとえば現代に生きる私たちは、致死的な感染症が、魔女をみな火あぶりにしなかったことや、異教徒を皆殺しにしなかったからではなく、細菌によって引き起こされることを知っています」とロビンソン氏は書いている。
2. 大統領の歴史の引用は不十分
ロビンソン氏はさらに、オバマ大統領が奴隷制やジム・クロウ法(米国における人種差別の条例などの総称)を、キリスト教が奴隷制を容認すると主張するキリスト教徒が支持していたと話した際、そのエピソードの全容には触れていなかったことを批判した。それは事実である一方、ロビンソン氏は、信仰によって奴隷制やジム・クロウ法に反対したキリスト教徒、たとえばウィリアム・ウィルバーフォースやマーティン・ルーサー・キング牧師のような信仰者もいたことを指摘した。
「しかし、奴隷制の廃止運動がキリスト教信仰とキリスト教会から生まれたことも事実なのです」とロビンソン氏。「南北戦争よりもかなり前に、宗教的、道徳的な議論の趨勢(すうせい)は反奴隷制度側に傾いていました。この恐ろしい制度を存続させたのは、奴隷の所有者にとっての経済的要請からでした」と指摘した。そして、「公民権運動は、北部においても南部においても組織の中心としてのキリスト教会がなければ、決して勝てることはなかったでしょう」とつづっている。
3. 表現が押し付けがましく、適切でない
たとえ「歴史的に正確」であったとしても、全体的に見て、オバマ大統領の批評は「もっともらしく、深みがなく、押し付けがましい」とロビンソン氏は指摘する。
オバマ大統領のスピーチの中で、謙遜についてキリスト教徒は「いばる」べきではないと語ったのに対して、ロビンソン氏は「むなしく聞こえる」とし、「戦闘員をこっぱみじんにするために、定期的に空爆用の無人機を出撃させるリーダーから来ている言葉」と断じた。
そして、ISによる最近の凶行を十字軍や宗教裁判と比較するのは、「極論過ぎる」としている。
かつてホワイトハウスで働き、2012年の大統領選において、オバマ大統領のキャンペーンで信仰面からの広報を行ったマイケル・ウェア氏は、ロビンソン氏よりは穏やかだが、オバマ大統領の批評は「表現が適切でない」と批判した。
ウェア氏は9日のMSNBCの番組「ローレンス・オドネルとの最後の言葉」に出演し、オバマ大統領は、2009年にエジプトのカイロ大学で行ったイスラム社会との融和を求めるスピーチと同様に、より希望に満ちたスピーチをするべきだったと述べた。
ウェア氏は、オバマ大統領は「私たちは、この宗教的な暴力のただ中にあってさえも、希望を持ち続ける理由があります。私たちは、キリスト教徒がこの宗教を曲解し奴隷制を正当化した歴史も持ちますが、一方迫害者を打ち負かし、奴隷を解放する神を説くために、この宗教の名を取り返そうと立ち上がったキリスト教徒の歴史もあります」と話すべきだったと語った。