戦後69年間、日本が守ってきた「憲法9条」。条文には、「1. 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。2. 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とある。
安倍政権は、昨年末に特定秘密保護法案を公布。今月に入り、ついに集団的自衛権の行使を容認した。首相官邸前では、多くの団体がデモを行い、全国各地でも反対運動が起こっている。しかし、こうした憲法9条改正の動きに、全く違う角度から歯止めを掛けたいと、一人の主婦が動き出した。神奈川県在住の鷹巣直美さんだ。憲法9条をノーベル平和賞に推薦し、受賞を目指そうというのだ。受賞者は、今まで憲法を守ってきた主権者である「日本国民」。鷹巣さんは、同県相模原市にある大野キリスト教会に通うクリスチャンでもある。
最初は、ノーベル平和賞を受賞すべくたった一人で動き出した。 「憲法9条にノーベル平和賞を授与してください」。鷹巣さんが初め一人でノーベル委員会に7回メールを送るも返信が来ることはなかった。しかし、ネット署名を立ち上げ、5日間で1300余りの署名が送られると、ノーベル委員会から、「ノーベル賞は個人か団体に授与するもの。法律などは受賞対象ではない」との回答があった。そこで、受賞者を「日本国民」としたのである。
2児の子育てをしながらの活動は、数々の制限も伴った。「一緒に活動をしてほしい」「手伝ってほしい」と声を上げると、地元の「9条の会」を中心に各方面から支援者が集まった。現在は、「下の子どもがまだ1歳なので子育てを優先させたい」との願いから、共同代表ではなく実行委員会の1人として活動。しかし、その実行委員会にも神は不思議な働き手を送り出した。プロテスタント、カトリックと教派を超えたクリスチャンが4人も含まれている。そして、ノーベル平和賞への推薦人には、多くの神学関係者、クリスチャンが名を連ねている。
「神様の導きと多くの方々の祈り、ご協力により、ここまで道が開かれてきました」と実行委員の一人で、JECA主都福音キリスト教会所属の岡田えり子さんは語る。ネット署名や街頭署名、鷹巣さんがクリスチャンだと知って、各教会などでも署名活動が行われ、昨年12月には1642筆だった署名数は、今月3日現在で13万1345筆に上った。10月10日のノーベル平和賞発表直前まで署名を集め、100万人を目指す考えだ。署名数を増やすことと同時に推薦資格者(世界各国の国会議員や閣僚、国際裁判所の裁判官、大学の学長、社会科学・歴史学・哲学・法学・神学の名誉教授、教授、および准教授など)に推薦を呼び掛けている。
「『憲法9条』は、聖書の教えそのもの。人間同士が殺し合うのを神様が喜ぶとは思えない。日本が誇るべきこの憲法を私たちは守っていかなければならない。このままでは、軍備の力比べ。たとえば、日本が『2』蓄えたら、他国は心配だから『3』蓄える。それを聞いたら、また不安になって、日本は今度『4』蓄える。もはや憲法9条は、日本国内だけでは守れないものになってきている」と話すのは、実行委員の一人でカトリック信徒の 松本ルカさん。
聖書には「剣をもとに納めなさい。剣を取る者はみな剣で滅びます」(マタイ26:52)と書かれている。裏切り者のユダがイエスを大祭司たちに引き渡すために近づいた時、イエスと一緒にいた者が剣を抜き、大祭司の僕(しもべ)の耳を切り落とした際にイエスが言われた言葉である。
「日本は、今、この剣を抜きかけているのかもしれない。しかし、今こそ、もとに納めるべき」と岡田さんは言う。同実行委員会では、日本語だけではなく、英語、韓国語でも署名を呼び掛ける文面を作成。ブログやフェイスブックで公開している。「憲法9条は、日本だけでなく世界各国に広まればいいと思う。みんなが戦争を放棄すれば、世界中が平和に暮らせるのでは」と松本さん。しかし、最近では、同委員会の名前を語る「なりすまし」も発生。注意を呼び掛けている。また、松本さんの本職はデザイナー。今回、この働きの啓発にと缶バッジを作成し、100個単位で販売している。
この夢のある働きに、「平和への願いは、誰もが共通して持っているもの。『わたしもノーベル平和賞候補』ということで、憲法9条について、世界の平和について、少しでも考え、自分にできる一歩を踏み出すきっかけになれば」と岡田さんは語る。最後に、推薦人の一人から送られたという聖句を話してくれた。
「主は国々の争いを裁き、多くの民を戒められる。彼らは剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を上げず、もはや戦うことを学ばない」(イザヤ2:4)
同実行委員会では、8月末まで用紙による署名を受け付け、ネットでは10月9日まで署名を受け付ける。10月のノーベル平和賞発表を前に、最後のひと押しをしたい考え。今こそ、祈りの力を集結し、「抜きかけた剣」をもとに納めたい。