対立の歴史を背負うアイルランドと朝鮮半島。その対立の歴史を共通に持つ、北アイルランドと韓国からのゲストを講演者にしたシンポジウム「分断と憎しみを超えて」(同実行委員会主催)が、5月20日(火)午後6時30分から8時30分まで、国際文化会館(東京都港区)で開催される。
アイルランドからの講演者は、北アイルランドのデリー(ロンドンデリー)にある団体「ジャンクション」で活動するジョンストン・マクマスター博士。同団体で、「倫理および1912年から1922年の出来事を共に想起するプロジェクト」の特別研究員、またプロジェクトディレクターを務めている。16年にわたり、北アイルランドおよび対立当事国でアイルランド全キリスト教会学部の和解プログラムのための教育責任者を務める。現在も、ダブリン大学のトリニティー・カレッジ、アイルランド全キリスト教会学部の非常勤助教授を務めている。
主な著書に、『正義を求める情熱:ケルトの伝統における社会倫理』『暴力の克服:アイルランドの歴史と神学の下に:伝統にとらわれない見方』『聖なる契約:しかし、どちらの?』(キャシー・ヒギンズ博士との共著)『私たちを繋ぐ言葉:イスラム教、ユダヤ教、キリスト教の伝統間の対話における倫理』がある。いずれも日本語訳はまだない。アイルランドのみならず国際的にも、放送出演や講義、講演活動を行っている。
一方、韓国からの講演者であるジョン・ジソク博士は、1960年生まれ。韓国で社会学学士と神学修士の学位を取得。アイルランドでエキュメニズムと平和学を学び、哲学修士の学位を取得。イングランドで博士号を取得。1983年から1991年まで、ソウルの繊維工場地区にある郡部教会と草の根教会で、牧師として牧会に当たった。1992年から1997年まで、キリスト教学園社会教育研究所と韓国国立協会協議会で社会教育、人権、平和教育のため働く。さらに、2001年から2002年まで、ユネスコ・アジア太平洋国際理解センターで国際的な平和教育のため働き、2004年から2009年までは、ソンゴン大学とハンシン長老派学校で「平和と精神性の倫理」を教えた。
2010年、50歳の時、人生の後半を南北朝鮮の平和と統一のための運動に捧げることを決意。2011年9月、鉄原(チョルウォン)へ引っ越す。以来、毎日午後3時に山に登り、平和祈願を続け、また平和の種のキャンペーンを続けている。2013年3月、非武装地帯(DMZ)平和プラザに、平和運動家を教育する目的で、国境平和学校(BPS)を設立。現在は、国境平和学校の創設理事(校長)、韓国YMCA生命平和センター理事、韓国宗教と平和協議会の宗教対話委員会委員などを務める。
シンポジウムのコーディネーターは、宗教学者で上智大学特任教授及び同大学グリーフケア研究所所長の島薗進氏が務める。
「長年対立の続く北アイルランド。その対立は『コソヴォと同じくらい根深く。ボスニア・ヘルツェゴヴィナよりも難しい』と言われます。そんな北アイルランドで相互理解のための努力を続けている宗教家ジョンストン・マクマスター博士が来日されます。さらに、昨年3月、韓国の非武装地帯に隣接する民間規制地帯に平和教育のための学校を設立したジョン・ジソク博士も同時に来日されます。お二人とも日本では宗教行事に出席されるのみで離日されるということでしたので、急遽お時間をいただき、お話を伺うことにいたしました」と、実行委員会は説明している。
「講演者はお二方とも牧師であり、和解に向けて実践的に取り組んでこられた方々ですので、ぜひ日本のキリスト教関係者にもお集まりいただけたらと思いました」と、実行委員の一人である深谷有基氏は述べている。
「お二方とも、非常に複雑な民族や領土の問題が絡まった『国境』という裂け目に、宗教家、とくにキリスト者として立ち、その両側にある憎しみを超えて和解の務めをなしておられるので、その具体的な実践から私たちも学びたいと思います。私たち東アジア人にとって、朝鮮半島の南北統一は東アジアの平和にとって決定的に大事ですので、とくにジョン氏の働きからいろいろ学びたいところです」と、深谷氏は本紙からの取材に対して述べた。