ブラジルの著名な人権活動家であるマーロン・ウェインチャート博士が8日、スイスジュネーヴの世界教会協議会(WCC)を訪問し、WCCのインタビューに応じ、ブラジル国内における同国の過去の痛々しい歴史を克服し、より良い将来へのビジョンが形成できるために果たしてきた諸教会の役割について語った。
ブラジル連邦警察の検察官でもあるウェインチャート博士は、1964年から1985年に生じたブラジル軍部による虐殺に対する調査書が提出され、既にブラジル議会上院を通過し、ブラジル・ルセフ大統領の承認待ちとなっている状況についてWCCに伝えた。WCCはこの調査書の作成を支援してきており、同博士とは、WCC中央委員会のウォルター・オルトマン博士が協調した取り組みをしてきた。
ウェインチャート氏は、インタビューの中でブラジルの民主主義政治に向けての葛藤、軍部の圧政による犠牲者を支持するための教会の役割について、またブラジル国内の社会勢力の和解における教会の役割の重要さについて語った。
Q 1964年~1985年の間にブラジル軍部によってなされた人権の濫用とはどのようなものだったのでしょうか?そのための真実を追求することは今どうして必要なのでしょうか?
人権の濫用という言葉には、殺害、拷問などいろいろな内容が含まれます。このような残虐行為は1968年、ブラジル国内でも保守派の軍事組織の影響力が増した時代以降に最悪の境地に達しました。そのような軍部の勢力と考えを異にする学生運動が盛んになり、双方の衝突により500人近くが殺害され、さらに5万人以上の人々が政治犯として告発されました。
ブラジル社会に住む人間として、私たちは過去の歴史で何があったかを知る権利があります。民主主義の社会では過去にあった出来事について国民によく説明されるべきであり、ブラジル国内が民主主義のプロセスを全うするためにも、私たちは未だブラジル社会に根付く「全体主義」に対抗していかなければならないと思っています。
アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、チリなどの南米各国も同じような手続きの過程にあります。よってこのような過程を経ることは、完全な民主主義の国家を形成するための一つの機会であると認識することができると思います。
Q ブラジル諸教会の民主主義社会を成し遂げるために成すべき役割とは何だと思われますか?
ブラジルの民主主義社会への移行において、ブラジル諸教会は常に特別な役割を果たしてきました。独裁政権の時代においては、教会指導者らは教会のネットワークを駆使して独裁政権の犠牲者たちを保護してきました。カトリックとプロテスタントの異なる伝統を持つ諸教会の役割は独裁政権時代においては異なる見解を伝える声の役割を果たしてきました。
1979年以降、諸教会指導者や法律家らが集い、当時の軍事政権によってなされた虐殺の真実に迫る動きが生じるようになりました。調査文書は首都ブラジリアから他の年、ブラジル国外でも知られるようになりました。WCCと米シカゴにある研究図書館センターは、同調査書を作成する主要なパートナーとしての役割を果たしてこられました。その結果当時の虐殺が行われた証拠や、政治犯となった人々に関する豊富な情報が含まれた文書となりました。
1970年代から80年代にかけて、同調査を進めるプロジェクトに当時のWCC総幹事のフィリップ・ポッター博士、南米WCC人権プログラムコーディネーターのジャールズ・ハーパー氏、長老教会牧師のジェミー・ライト氏が大きな役割を果たしてこられました。
当時軍部による虐殺について707件の人権を濫用する違法な件が取り上げられ、その文書は「ブラジル―二度同じことを繰り返さないために」というタイトルで出版されました。この本を10代の頃読んだことがきっかけで、人権問題に関心が深まるようになりました。
同書は1985年、軍事政権が終焉を迎えたほんの数カ月後に出版され、ブラジル国内書店においてベストセラーとなりました。この文書作成に大きく貢献したのがブラジル諸教会でした。ブラジル諸教会が、人権に関する関心を示され、諸教会が宣べ伝えている信仰に適う行動を起こされたのです。
Q 今年始めに、オラフ・フィクセ・トゥヴェイト総幹事が「虐殺に関する文書」をブラジル政府に返還した動きについてどのように感じますか?
サンパウロで今年6月に行われたWCC総幹事のブラジル政府への虐殺調査文書返還式典では、WCCから直接同文書がブラジル軍司令官に手渡されました。これは私たちすべてにとって感動的な瞬間でした。諸教会が軍事政権と戦ってきた長い旅を経て、今社会が過去の事実と直面し、過去の事実をきちんと認識した上で将来に向けたより良い民主主義へ歩み出す瞬間を迎えました。
諸教会は上院を通過した真実を伝える文書がブラジル大統領の下に届き、事実であることを承認する過程において、強力な役割を果たしてきました。このような過程は市民社会の動きに教会が関わらなければ成し遂げる事が難しかったでしょう。歴史の真実を理解し、真実を理解することでこれからの歩む道を学んでいくことができるのです。