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【書評】ディートリッヒ・ボンヘッファー著『行為と存在 組織神学における超越論哲学と存在論』

2026年5月28日20時59分 執筆者 : 臼田宣弘
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関連タグ:ディートリッヒ・ボンヘッファー
【書評】ディートリッヒ・ボンヘッファー著『行為と存在 組織神学における超越論哲学と存在論』+
ディートリッヒ・ボンヘッファー著『行為と存在 組織神学における超越論哲学と存在論』(新教出版社、2007年3月)

映画「ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師」が話題となった。この映画は、ディートリッヒ・ボンヘッファーの行動を題材としたものである。しかし、ボンヘッファーには膨大な著作があり、彼が絞首刑されるに至る行動は、その著作に裏打ちされている。ボンヘッファーの行動を真に理解しようとするならば、著作集を読む必要があろう。その意味で、今後それらを紹介していきたい。

ボンヘッファーは、1927年に弱冠21歳で博士論文『聖徒の交わり』を執筆しており、これが彼の著作物では最初のものとなっている。その後、1929~30年に、執筆終了時点では24歳の時、大学教授資格取得のために書いたのが原著書名「Akt und Sein」の本書である。

本書の邦訳は、旧版が1965年に国谷純一郎氏によって、『行為と存在』として出版されている。そしてハンス・リヒアルト・ロイター編集の新版は、2007年に池永倫明氏によって翻訳され、出版されている。私は神学生時代から旧版を持っていたが、その難解さ故に長く書棚に眠らせていた。新版に読みやすさを期待して出版後すぐに購入したが、こちらも難解であることに変わりがなかった。

しかし、この『行為と存在』は、ボンヘッファーの後の著作集や遺稿集の土台となっているものであり、本書を避けては彼の著作を真に理解することはできないと考えた。そこで、本書を紹介した上で、ボンヘッファーの他の著作を順次紹介していきたい。

本書の背景には、当時の欧州哲学の状況がある。近代神学は哲学との対話を避けては成立し得ず、カール・バルトやルドルフ・ブルトマンもまた、それぞれ独自の仕方で哲学と格闘していた。しかし、ボンヘッファーの場合、その関わりは特に徹底している。彼は哲学を単に援用したのではなく、イマヌエル・カント以来の超越論哲学や、マルティン・ハイデッガーの存在論と真正面から対決し、それを神学的に乗り越えようとしたのである。

そのため、3部構成である本書の第1部「哲学における自律的な現存在理解に関する認識論の問題として、予備的に考察された行為と存在の問題」は、当時の哲学を理解できていないと理解しにくいという構造になっている。ここでボンヘッファーが「行為」としているものは、カント以来の、ヨハン・ゴットリープ・フィヒテやエトムント・フッサールといった哲学者による「人間は『私は私である』と自己を意識することによって、自分を成立させる」という思想のことであり、彼らによって確立され発展させられた「超越論哲学」の中核的概念とされているものである。

一方「存在」とは、ハイデッガーを中心とする「人間は既に世界の中に投げ込まれて存在している」という考え方であり、ボンヘッファーはこの「存在論」を高く支持していた。しかし同時に彼は、「存在論だけでは、神の啓示や人格的な神との関係を十分に捉えることができない」という哲学の限界も見ていたのである。

第1部ではこのような哲学的問題が詳細に論じられているため、そこでつまずく読者も少なくないであろう。実際、本書を読み通すこと自体がそこで困難に感じられてしまう場合もある。それで私は、そのような場合には、第2部「啓示の解釈における行為と存在の問題と、その問題の解決としての教会」から読み始めることも本書を読む一つの方法ではないかと考える。

第2部に入ると、哲学的議論は教会論と啓示論へと移行し、ボンヘッファーの神学的意図がより鮮明になる。第1部は哲学者たちとの格闘が中心であった。第2部では、バルトの「神の語りかけという出来事(行為)としての啓示」や、カトリック神学に見られる「教会の客観的現実(存在)としての啓示」との対話を通して、「教会とは何か」という神学的問いが前面に出てくるのである。

ここでボンヘッファーは、前作『聖徒の交わり』において展開した「教会において存在するキリスト」という教会論的思想に立ち返る。ただしそれは、単なる繰り返しではなく、超越論哲学と存在論、すなわち哲学的に見た「行為と存在」への批判を経た上で、啓示(神がキリストにおいて自らを現すこと)の出来事としての教会と、そこにおける「行為と存在」を改めて捉え直す試みとなっている。

第1部が哲学的問いであって、第2部が啓示論・教会論であったのに対し、第3部「『アダムにおける』、また『キリストにおける』人間の具体的教理における行為・存在問題」では、人間論が展開される。ここでは、それまでの章における「対話」とは違い、「人間は、自分自身によってではなく、キリストとの関係において存在する」という、ボンヘッファー自身による神学の構築が進められている。

そして、ここで構築された神学は、その後の彼の著作の基盤となり、さらにはナチズムとの対決における彼の実践的行動を支える神学的根底ともなっていくのである。以下にそれを列挙してみたい。

1. 「他者のために存在する」という思想

ボンヘッファーは思索を重ねた末に、「キリストにおける存在は、キリストに向けられた存在である。これは『すでにキリストの共同体の中にある』ことによってのみ可能である。こうして、超越論的出発点と存在論的出発点とが再び結合する」(161ページ)と述べている。

ここで重要なのは、人間存在が孤立した主体としてではなく、キリスト共同体との関係の中で理解されている点である。行為と存在の統一は、説教と聖餐を中心とする教会共同体の交わりの中で可能になるのである。ここには、後の「他者のために存在する」というボンヘッファー思想へつながる萌芽(ほうが)を見ることができる。

2. 「高価な恵み/安価な恵み」の思想

第3部第2章の2「キリストにおける存在の過去による規定―良心」(161~164ページ)には、後の『キリストに従う』における、「安価な恵み」批判からの「高価な恵み」へとつながる問題意識を見ることができる。ここでボンヘッファーは、人間を単なる宗教的主体としてではなく、自らの過去と罪を背負いながらキリストとの関係において責任を負う存在として理解しているからである。

3. 「成人した世界」の思想

第3部第2章の3「キリストにおける存在の将来による規定―子供」(164~169ページ)には、後のボンヘッファー神学における「従う」ことや、「自己を神へ委ねる存在」としての人間理解の萌芽を見ることができる。ここで人間は、自己完結的な主体ではなく、「神から将来を与えられつつ生きる存在としての子供」と理解されている。

この理解は、後の『獄中書簡』における「成人した世界」の思想においても、人間の自律性と神への依存との緊張関係として一貫して受け継がれていく。この「子供」というユニークな思想の展開をもって、本書『行為と存在』は終了している。

難解な著作ではあるが、1月21日の書評で紹介したうちの『はじめてのボンヘッファー』『ディートリッヒ・ボンヘッファー 抵抗に生きた神学者』と、その他『ボンヘッファー伝①』に収められている『行為と存在』の解説の部分を副読本として併読したことが、私にとって大いに助けとなった。

■ ディートリッヒ・ボンヘッファー著『行為と存在 組織神学における超越論哲学と存在論』(新教出版社、2007年3月)

◇

臼田宣弘

臼田宣弘

(うすだ・のぶひろ)

1961年栃木県鹿沼市生まれ。80年に日本基督教団小石川白山教会(東京都文京区)で受洗。92年に日本聖書神学校を卒業後、三重、東京、新潟、愛知の各都県で牧会。日本基督教団正教師。2016年より同教団世真留(せまる)教会(愛知県知多市)牧師。

関連タグ:ディートリッヒ・ボンヘッファー
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