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コヘレトの言葉(伝道者の書)を読む

コヘレトの言葉(伝道者の書)を読む(22)光と崩壊、そして裁き 臼田宣弘

2026年2月26日23時59分 コラムニスト : 臼田宣弘
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関連タグ:コヘレトの言葉(伝道者の書)フョードル・ドストエフスキー臼田宣弘

今回は11章7~10節を読みますが、まず、今までのことを少し振り返りたいと思います。

「生における時」と「裁きの時」

コヘレトの言葉をここまで読んできて、私はこの書の4章以降には、2つの論点があると考えるようになりました。その分岐は、9章10節と9章11節になるでしょう。一方、3章まではその2つの論点の序論であり、コヘレトはそれぞれについて2つの「時」(エート / עֵת)を語っているように思えます(第5回参照)。

一つ目の時は、3章1~8節に示される「生まれる時、死ぬ時」という「生」における時です。この場合、死は生の最後の一瞬と考えます。3章1~8節には、生におけるさまざまな時が語られています。ここでの時は、全て「今」という言葉に置き換えられます。

もう一つの時は、3章17節に示される「裁き」の時です。この時は、私たちの生の枠を超えた時であり、今と同列に置くことはできません。むしろ、未来に向けて開かれた時として理解せざるを得ないものです。

不条理とペガ

「私は振り返って見た」(原文に忠実な翻訳)で始まる、4章1節から9章10節までは、この世界の構造の中に埋め込まれている不条理に対する問いが主題です。「努力しても成果が保証されない」「人生の有限性」といった不条理に対するコヘレトの答えは、「今この時を、食べて飲み、神礼拝をしつつ、隣人と共に楽しく生きよ」(9章7~10節)でした。この「今」とは、3章1~8節で示されている「生」における今です。ここでは、今という時における解決が示されていました(第16回参照)。

一方、9章11節以降では、予期せぬ出来事、災害、偶然の幸運・不運といった、人間の努力や知恵では制御できない事態に対する問いが発せられています。これは、ヘブライ語のまま「ペガ / פֶגַע」と呼ぶことにします。ペガは不条理とは異なり、未来に属する偶発的事象です。コヘレトはこれに対して「パンを水面に投げよ」「種を蒔(ま)き続けよ」と、未来に向けた行動をもって応答するように語ります。これはもはや、3章1~8節の生における「今」の時では答えを出せない問いです。

最終的に、ペガに対する応答は、裁きの時に帰着します。今回読む11章7~10節では、光と若さの中で行動する私たちの姿を通して、この終末的な応答の意味が語られているのです。

種を蒔くことへの一次的な答え

7 光は快く、太陽を見るのは目に心地よい。8a 人が多くの年月を生きるなら、これらすべてを喜ぶがよい。

7節~8節aの言葉は、単なる感覚的な快さではなく、未来において努力が実を結ぶことの喜びを象徴しています。その前の1~6節で、コヘレトは「パンを水面に投げよ」「種を蒔き続けよ」と、未来の成果が見えない中でも、行動すべきであることを説いていました。パンを水面に投げることも、種を蒔くことも、確実な結果が伴うとは限らない行為です。しかし、その行為を継続する中で、ある日、蒔かれた種は芽を出し、実を結ぶことがあります。

この視点で7節を見ると、「光は快く、太陽を見るのは目に心地よい」は、努力が実を結んだときの喜びや満足感を示しています。光や太陽は、私たちの行動の結果として与えられる恵みであり、これまでの種蒔きや忍耐の積み重ねが形となった未来の象徴です。

さらに、8節aの「人が多くの年月を生きるなら、これらすべてを喜ぶがよい」は、長い年月の努力や経験が、最終的に実を結び、その過程で得た喜びを味わえることを示しています。種を蒔き続けた未来において、光を見て太陽を楽しむことは、単なる感覚的な楽しみではなく、行動と忍耐の結果としての実感的喜びであるのです。

つまり、1~6節で説かれている「未来の不確実性に対して行動せよ」という教えは、7~8節aで描かれる、未来において実った光の喜びによって、応答がなされているのです。不確実性の中で、未来に向けて種を蒔き続ける行為は、やがて光と太陽の中で報われ、私たちはその喜びを受け取ることができるのです。

崩壊とヘベルと裁き

8b しかし、闇の日が多いことも思い起こすがよい。やって来るものはすべて空である。9 若者よ、あなたの若さを喜べ。若き日にあなたの心を楽しませよ。心に適う道を、あなたの目に映るとおりに歩め。だが、これらすべてについて、神があなたを裁かれると知っておけ。10 あなたの心から悩みを取り去り、あなたの体から痛みを取り除け。若さも青春も空だからである。

コヘレトは、未来の成果として得られる喜びの後に待ち受ける、人生の崩壊と有限性を私たちに思い起こさせます。「しかし、闇の日が多いことも思い起こすがよい。やって来るものはすべて空である」と語る8節bは、種を蒔き続け、光や太陽の喜びを享受したとしても、それが永遠に続くわけではないことを警告しています。光の後には再び闇が訪れ、どんな営みも最後にはヘベル(空)に帰するのです。

9節の「若者よ、あなたの若さを喜べ」は、単に年齢的な若さを指すだけではありません。この若さには、未来に向かって種を蒔く行動の中で生じる希望や活力も含まれています。すなわち、種を蒔き、未来に向けて行動することで得られる生命力や可能性が、若さとして体現されるのです。

「若き日にあなたの心を楽しませよ。心に適う道を、あなたの目に映るとおりに歩め」という語りかけは、年齢的な若さの自由さと同時に、行動や創造の自由を享受せよという呼びかけでもあります。種を蒔き続ける中で得られる光、つまり、自分の力で生み出すことのできる可能性や成果の喜びもまた、ここでいう若さに含まれていると読むことができるでしょう。

しかし、同時にコヘレトは、「だが、これらすべてについて、神があなたを裁かれると知っておけ」と、再度警告します。若さや光、活動の喜びは与えられたものであり、最終的には神の裁きという枠組みの中にあることを忘れてはならない、と述べるのです。10節でも「若さも青春も空だからである」と述べ、光や喜びが永遠に続くわけではなく、人生の崩壊や有限性を認識することの重要性を示しています。

従って、ここでの若さの理解は二重です。一つは年齢的な若さ、もう一つはペガが起こる不確実性において、種を蒔き続ける行動によって得られる光としての若さです。コヘレトは意図的に、年齢的若さと、行動の結果として与えられる光としての若さの両方を示し、その光もまた崩壊を迎える可能性があることを教えています。しかし、それでもなお、未来に向かって行動し続けるべきであり、神は最終的に裁きの座に私たちを導かれるのです。

9章11節から伝えらえて来たペガとそれに対する対応は、まとめると以下のようになるでしょう。

  1. ペガ(偶発的出来事):未来に属する不確実な現象。人間の努力や知恵では制御できない。
  2. パンを水面に投げよ、種を蒔け:未来に向けて行動する呼びかけ。ペガに対する主体的応答。
  3. 光:種蒔きや行動の中で得られる成果や喜び、希望。若さや活動の象徴としても読むことができる。
  4. 崩壊:光の後に訪れる人生の挫折や有限性。
  5. ヘベル(空):崩壊した後に残る虚無や有限性の認識。
  6. 裁き:3章17節で示される神の最終的な裁き。ペガを含む未来の出来事の後に、秩序と意味を与える神の判断。現世での行動や種蒔きの結果も含め、神の前で評価される。3章12~13節の「食べて飲むことの受容」と対応して、①人生の有限性を認識させること、②出来事に秩序を与えることの2つの側面を持つ(裁きについては、次回と次々回にさらに詳しくお伝えします)。

9章11節から始まった、ペガについてのコヘレトの考察は、一応ここでまとまりを持ったと見ることができます。

ドストエフスキーの『白痴』と併せ読む(5)

9章11~12節では、ペガについての一般論が提示され、13節から具体的な事柄に話が展開していきます。それに併せて、第18回からフョードル・ドストエフスキーの『白痴』との併せ読みを行ってきました。

この小説では、さまざまな登場人物がそれぞれペガに巻き込まれます。その中で、主人公のムイシキン公爵は、起こったペガの出来事をただ受け止めながら、自らの行動として「種を蒔くこと」をやめません。結果が保証されなくとも、彼は未来に向けて希望や善意を絶やさず行動し続けるのです。

今回は、亀山郁夫訳『白痴(4)』の7章を中心に併せ読みたいと思います。コヘレトの言葉11章7節の「光は快く、太陽を見るのは目に心地よい」は、種を蒔き続ける中で得られる希望や活力を象徴しています。『白痴(4)』7章で描かれる、エパンチン家で開かれた夜会での「花瓶事件」は、まさにこの「光」として読むことができます。

ムイシキン公爵は、ロシア正教が一般的なペテルブルクで開かれたこの夜会で、カトリック批判の言説を、身振り手振りを交えて大げさに語り出します。そうしているうちに、部屋にあった大きな高価な中国製の花瓶に手が触れ、割ってしまうのです。夜会には、ムイシキン公爵と互いに好意を寄せ合っていたエパンチン家の三女アグラーヤや、その母エリザヴェータ夫人が参席していました。

エパンチン家の家宝であるこの花瓶を割ってしまったことを、ムイシキン公爵はひたすら謝罪しますが、エリザヴェータ夫人は「いえ、べつにどうってことありませんよ!人間にだって終りは来るんですから、たかが粘土の壺(つぼ)ぐらいで!」と意に介しません。夜会に参席していた他の人たちも同じようでした。それは、ムイシキン公爵が普段から他者の話を受け入れてきたという「種蒔き」の成果として、光が彼に向けられた瞬間と読むことができます。【光】

しかし、この光は長くは続きません。11章8節bの「しかし、闇の日が多いことも思い起こすがよい。やって来るものはすべて空である」が示すとおり、花瓶事件の後には、人々の心理的混乱による崩壊が訪れます。光にあったムイシキン公爵は、アグラーヤの離反などによって、間もなく現実へと戻されます。つまり、喜びや成果の後に崩壊が起こり、結果が保証されない人生の現実を私たちに想起させるのです。【崩壊】

さらに、アグラーヤの離反はナスターシヤを再び登場させ、既に破綻しているナスターシヤを救えないムイシキン公爵は、そこにヘベル(空)を露呈させてしまいます(次回に詳述します)。11章9~10節で語られる「若者よ、あなたの若さを喜べ。(中略)だが、これらすべてについて、神があなたを裁かれると知っておけ。(中略)若さも青春も空だからである」という警告は、光の後の崩壊についての空ですが、『白痴』においても崩壊がヘベル(空)へと向かいます。【ヘベル(空)】

けれども、ムイシキン公爵は、花瓶を割った出来事を受け止めつつ、それでもなお他者や人との関係に対する行動、つまり「種を蒔くこと」をやめません。この姿は、コヘレトが説く、光の喜びと崩壊、有限性、そして未来に向けて行動する態度を体現しています。【裁き】

こうして、コヘレトの言葉11章の「ペガ→種蒔き→光→崩壊→ヘベル(空)→裁き」の図式は、『白痴』の花瓶事件とその後の展開を通して、具体的に理解することができます。光は希望や可能性の瞬間、崩壊は挫折や混乱、空はその有限性、そして裁きは行為の意味や最終的な秩序として現れて、読者に示されるのです。(続く)

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◇

臼田宣弘

臼田宣弘

(うすだ・のぶひろ)

1961年栃木県鹿沼市生まれ。80年に日本基督教団小石川白山教会(東京都文京区)で受洗。92年に日本聖書神学校を卒業後、三重、東京、新潟、愛知の各都県で牧会。日本基督教団正教師。2016年より同教団世真留(せまる)教会(愛知県知多市)牧師。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
関連タグ:コヘレトの言葉(伝道者の書)フョードル・ドストエフスキー臼田宣弘
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