世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会気候危機タスクフォース主催の「気候危機学習会」が12日、オンラインで開かれ、日本キリスト教協議会(NCC)平和・核問題委員会で10年以上委員長を務めた内藤新吾氏(日本福音ルーテル稔台教会牧師)が講演した。原発問題の倫理的視点からの再考をテーマに語り、講演後には各宗教の代表者ら7人が座談会形式で話し、内藤氏がそれぞれに応答。約70人が参加した。
内藤氏は、NCC平和・核問題委員会の委員長退任後も委員を務めており、『キリスト者として“原発”をどう考えるか』『原発問題の深層』など、原発を巡る複数の著書がある。現在は、青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場の運転差し止めを求めて提訴している「原子力行政を問い直す宗教者の会」の事務局に携わっているほか、「原発体制を問うキリスト者ネットワーク」(CNFE)の共同代表などを務めている。
「クリーンなエネルギー」ではない原発
この日は冒頭に、ドイツで製作された映画「イエロー・ケーキ」(2010年)を紹介。「クリーンなエネルギーという嘘(うそ)」というサブタイトルの付いたこの映画は、原発の燃料として使用されるウランの採掘場を5年にわたり取材したドキュメンタリー映画。原発による核汚染は燃料の採掘から既に始まっているとし、「(核は)平和利用だから良いというわけではないことがよく分かる」と話した。
また、自然界に存在するウランの半減期(放射能が半減するまでの期間)は45億年と、地球の年齢とほぼ同じであることを指摘。地中深くにあることで安全に保たれていることには、創造主の「配慮」を感じるとし、それ掘り起こすことは「創造主への冒瀆(ぼうとく)ではないか」と話した。
「核のごみ」と呼ばれる高レベル放射性廃棄物を直接処分した場合、その放射能が自然界並みに減衰するのには10万年かかるとされる。さらに、大規模な事故が発生しなくても、13カ月に1回、数カ月かけて行われる原発の定期点検には、数千人規模の作業員が動員され、多少なりとも被ばくする。内藤氏は、作業員の多くが電力会社の社員ではなく外部から雇われた労働者であることにも触れ、「(原発は)そういう(作業員の)被ばくを前提として成り立っている。私たちはそれを認めていいのか」と訴えた。
さらに、マグニチュード7以上の地震が発生する地域に原発があるのは、世界的に見てもほぼ日本に限られると指摘。「地震大国で原発を認めるかどうかは、倫理的な問題になるだろう」と話した。
見え隠れする核兵器製造の思惑
核兵器と原発の関係についても話した。歴史的に原発の世界的な普及は、核兵器を保持し続けたい米国や旧ソ連などの大国がその経済的安定のために立案したものだと指摘。その一方で、日本など原発を受け入れた側も、将来的な核兵器製造への思惑があったはずだと話した。
その根拠として、外務省の外交政策企画委員会が1969年に作成した「わが国の外交政策大綱」に、「当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持する」と書かれていることを紹介。また、国会の質疑で、憲法が定める「必要最小限度の実力」にとどまるのであれば、核兵器の保有は必ずしも違憲とはされないとする答弁がなされていることも挙げた。加えて、破綻が指摘される中、核燃料サイクル政策を巨額の費用をかけて継続していることも、その過程で核兵器に転用可能な高純度のプルトニウムを生産できることに理由があるのではないかと語った。
7人の宗教者が座談会形式で意見交換
内藤氏の講演後には、山越教雄氏(WCRP日本委事務次長)がモデレーターを務め、7人の宗教者が座談会形式で意見を交換。赤井悠蔵(カトリック東京大司教区大司教秘書・広報)、田爪希依(立正佼成会調布教会教会長)、高地敬(日本聖公会京都教区主教)、田中庸仁(真生会会長)、水谷周(日本ムスリム協会理事)、八坂憧憲(中山身語正宗本部長)、國富敬二(立正佼成会徳島教会教会長)の各氏が話し、それぞれの発言に対し内藤氏が応答のコメントを語った。
このうち、東日本大震災の支援活動でさまざまな被災地を訪れた経験のある赤井氏は、津波により壊滅的な被害を受けた地域は復興が進んでいる一方、福島第1原発事故の避難指示区域は、直接的な被害を受けた建物は少ないものの、誰一人住民がいない状況であることを目にし、「何ともいえない気味悪さ」を感じたと話した。その上で、原発事故の被害は自然災害ではないとし、被害地でさまざまな分断を生んでいることも踏まえ、「倫理の問題であり、人権の問題」と話した。
高地氏は、「危険な暑さ」とされる日が年々増えている状況に触れ、原発と地球温暖化の関係などについて語った。これに対し内藤氏は、原発は発電時、温室効果ガスである二酸化炭素を排出しないものの、原子炉を冷却するために大量の海水を用いており、7度近くも上昇させて放出していることを指摘。かつて地球の温暖化ではなく寒冷化が心配されていた時期には、寒冷化対策として原発の推進を挙げる科学者もいたことを話した。
家族に福島第1原発事故の避難者がいる田中氏は、原発政策は政治によるところが大きいとし、政治に働きかける有効な方法について尋ねた。これに対し内藤氏は、超党派の議員連盟「原発ゼロの会」(現「原発ゼロ・再エネ100の会」)を紹介。少数派ではあるが、原発の全廃を掲げて活動している国会議員がいることを話した。また、昨年6月に可決・成立した改正原子力基本法は、脱炭素社会を目指すことを理由に原発推進が明記されるなどしたとし、その問題性を強調。同法を含めた原発政策に対するスタンスを、投票先を決める際の判断材料とすることを語った。