最近発表された調査結果によると、英国ではキリスト教徒の半数以上が、信仰を理由に敵意や嘲笑を受けた経験があるという。
「信仰を守ることの代償」(英語)と題された報告書は、非営利団体「英国正義の声」(VFJUK)が発表した。教派や年齢層が異なるキリスト教徒1500人以上から回答を得たが、このうち56%が何らかの形で、信仰を分かち合ったことにより否定的な反発を受けたと報告している。特に35歳以下は61%と高かった。
「(信仰を理由とした)いじめも報告されています。キリスト教徒は、職場で自分の意見を自由に述べることができませんでした。若い世代は、上の世代よりもこのような否定的な経験をしているようで、事態が悪化していることを示唆しています」
報告書は、英国に言論の自由のための理論的な法的保障があることを認めつつも、今回の調査結果は「キリスト教徒に対する不寛容と差別に関して(英国が)欧州で最も高いレベルにあること」を示していると指摘している。また、英国のヘイトスピーチ法が「嫌がらせ、自己検閲、直接的・間接的差別」のまん延を引き起こしているとした。
報告書の第3章は差別について掘り下げており、英国の若いキリスト教徒の間で差別が報告されるケースが増加していると指摘している。差別の一部は職場で起きており、礼拝がある日曜日に不必要に仕事をさせられたり、報復を恐れて自身のキリスト教信仰を胸にしまっておくことを事実上強制されたりするなど、多岐にわたる。
第4章は、特に英国の公的医療事業「国民保健サービス」(NHS)に焦点が当てられている。それによると、英国では病院で十字架のネックレスを着用していたために退職を余儀なくされ、訴訟を起こした看護師の事例をはじめ、キリスト教徒の職員がその信仰に基づいた行動により処罰される事例が相次いでいる。
また、英国の教育界における反キリスト教感情についても調査しており、キリスト教徒の両親や教師らが村八分にされたり、差別されたりしていると感じるケースが増えているとしている。
第9章は、主流派の教会の教勢が低調であることを明らかにしており、教会の多くが「進歩的で世俗的なイデオロギーを取り入れており、その結果、信徒は差別を感じ、教会からますます遠ざかっている」と報告している。
英国におけるキリスト教徒に対する文化的敵意の多くは、LGBTQ(性的少数派)のイデオロギーから生じていることが今回の調査で判明した。また、迫害の悪化を報告した若いキリスト教徒のほとんどが、性やジェンダー、結婚に関する聖書の教えを固く信じていることも分かった。
「今回の調査によると、結婚、性、ジェンダーに関する信条に関しては、社会全体が進歩的なイデオロギーに押し流される一方で、ほとんどのキリスト教徒はオーソドックスなキリスト教信仰を堅持しているようです。逆説的ですが、より伝統的な考えを持っていたのは、年配の世代よりも若い世代でした。これによってキリスト教徒は進歩主義者と衝突することになったのです」
欧州の「キリスト教に対する不寛容と差別に関する監視委員会」(ОIⅮAC)は声明を発表し、歴史的にキリスト教徒が多い国々で反キリスト教感情が高まっていることについて、今回の調査結果の「憂慮すべき」点が、同委が発見した傾向の一部と合致すると指摘した。
欧州と南米のOIⅮAC、また国際宗教自由研究所(IIRF)は2022年、共同で「自己検閲に関する認識―『萎縮効果』の確認と理解」(英語)と題する報告書をまとめ、そうした国々では多くのキリスト教徒が自ら沈黙を選択していることを明らかにした。
この調査では、一般的で漠然とした評価を避けるため、調査対象をフランスとドイツの欧州系キリスト教徒、およびメキシコとコロンビアのラテン系キリスト教徒に限定した。
これらの国では、あからさまで物理的な迫害がないにもかかわらず、多くのキリスト教徒が、巧妙で広範な迫害を避けるため、自らの信仰を自己検閲していることが分かった。報告書はこの調査結果を、米人気歌手テイラー・スウィフトの曲「Death by a Thousand Cuts」(千の切り傷による死)に例えている。
「数回の切り傷では死ぬことはなく、ほとんど痛みはありません。しかし、継続的な小さな打撃はやがて影響を及ぼします。一見取るに足らない出来事の積み重ねが、キリスト教徒が安心して信仰を自由に実践できない環境をつくり出していると私たちは推測しています」
英国は21年の国勢調査(英語)で、1801年の第1回国勢調査以来初めて、キリスト教徒を自認する人が人口の半数を下回った。
6700万人余りいる人口のうち、キリスト教徒だと回答した人は46・2%の2750万人にとどまった。11年の国勢調査では、59・3%(3330万人)がキリスト教徒だと回答しており、人口に占めるキリスト教徒の割合はこの10年間に13ポイント以上も下がった。