インドネシアはこのほど、イエス・キリストを、現地のイスラム教徒らの間で使用されているアラビア語由来の呼称「イーサー・アル・マスィーフ」で呼んできた長年にわたる政策を廃止することを決めた。キリスト教の祝祭日についても同様に、アラビア語由来の名称から、現地のキリスト教徒らの要望を踏まえたギリシャ語由来の名称に変更する。同国のジョコ・ウィドド大統領が1月末、関連する大統領令に署名した。
インドネシアの公共国際ラジオ放送「インドネシアの声」(VOI、インドネシア語)によると、宗教省のサイフル・ラフマト・ダスキ副大臣は、この政策変更が同国のキリスト教コミュニティーからの要望を受けたものであることを話した。
大統領令は、祝祭日の取り決めを調和させ、地域社会の均衡と法的配慮を調整することを目的に、4つの祝祭日の名称をキリスト教の信条に合わせて変更する。名称が変更される祝祭日は、聖金曜日、復活祭(イースター)、昇天祭、クリスマスの4つ。例えば、聖金曜日はこれまで「イーサー・アル・マスィーフの受難日」と呼ばれていたが、「イエスース・クリストスの受難日」と変更される。
インドネシアは世界最大のイスラム教人口を抱える国だが、国民の大多数は進歩的で穏健であると考えられている。同国の憲法は「パンチャシラ」と呼ばれる5原則(唯一神への信仰、人道主義、国の統一、民主主義、社会的公正)に基づいており、イスラム教を国教と定めず、信教の自由を認めている。
しかし、パンチャシラに反対する過激派も多い。そのため、インドネシアのキリスト教会はしばしば、非イスラム教徒の礼拝所の建設を妨害しようとする団体からの反対に直面している。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、このような団体からの圧力により、同国にある千余りのキリスト教会が閉鎖されたという。
また、国際キリスト教迫害監視団体「オープンドアーズ」は、キリスト教徒に対する迫害が激しい50カ国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト」(2024年版、英語)で、インドネシアを42位としている。オープンドアーズは同国の状況について、次のように報告している。
「インドネシア社会は近年、イスラム教の保守的な解釈にますます影響され、キリスト教徒を取り巻く状況は悪化しています。世論調査では、特に若者が保守的な考えを抱いていることが定期的に示されており、イスラム教の服装に関する条例も一般的になりつつあります」
「イスラム教からの改宗者の多くは、家族からの圧力を経験しています。しかし、その圧力の強さは個々の家庭や場所によって異なります。キリスト教に改宗した人にとって、圧力のほとんどは孤立や暴言、仲間はずれという形を取ります。ごく一部の改宗者は、キリスト教信仰を理由に身体的暴力に直面し、インドネシアの別の地域への移住を余儀なくされることもあります」
インドネシアの宗教指導者や学者らは、今回の政策変更を歓迎しており、異なる信仰共同体間の誤解や摩擦を減らすための一歩と見なしている。
インドネシアの内務省住民民事登録局の2021年のデータによると、同国にはプロテスタント信者2040万人、カトリック信者842万人がおり、合計すると2億7223万人いる総人口の10・58パーセントを占める。一方、イスラム教徒は2億3653万人で、総人口の86・88パーセントを占める。