イスラム教徒が多数を占めるエジプトには、約970万人のキリスト教徒がおり、国の人口の約9%を占めている。
エジプトに住むキリスト者たちによれば、エジプトでの信教の自由に対する侵害は、主に地域の共同体で経験するという。クリスチャンの女性が道を歩いていると嫌がらせを受けたり、原理主義のイスラム教徒の暴徒がキリスト者の共同体全体を強制退去させ、彼らの家や持ち物を没収したりと、事件はさまざまだ。
このような事件は、サラフィー運動(イスラム原点回帰運動)が活発な上エジプトの農村部で多く起きている。
エジプト憲法では宗教政党を禁止しているのだが、それにもかかわらずイスラム・サラフィ・アルヌール党が存在し、合法的に活動を続けている。彼らの影響力は、文盲と貧困の割合が高い農村社会ではかなりのものだ。
エルシーシ大統領は、定期的にキリスト教共同体について肯定的な発言をしているが、抜本的な法執行の欠如は改善されていないようだ。それに加えて、地方当局がキリスト教徒を保護しようとしないため、特に上エジプトでは、キリスト教徒はあらゆる攻撃に対して脆弱(ぜいじゃく)だ。
エジプトの地域社会の敵意と暴徒による暴力は、依然としてキリスト教徒に困難を引き起こしている。
政権の独裁的な性質のために、教会の指導者や他のキリスト教徒がこうした政治的慣行に対して声を上げることがあるが、その声はむなしく響いている。
さらには「全ての地域の教会は、公式登録されて合法化される」とした大統領の約束にもかかわらず、新しい教会の建設は制限されている。教会の新規登録は、モスクの扱われ方とは明らかに対照的だ。
イスラム教を背景に持つキリスト教徒は、家族からイスラム教への復帰を強く求められるため、信仰を貫くことが非常に困難である。国はまた、彼らが改宗したことを公式に認めてもらうことを不可能にしている。
あるキリスト教徒の姉妹は、イスラムの服を着ていなかったために攻撃を受けた。ラケル(仮名)の息子が病気になったとき、彼女は一目散に薬を買い求めに家を出た。「私は急いで近くの薬局に行きました。慌てて飛び出したので、腕の半分が隠れるTシャツを着て、スカーフはかぶっていませんでした。しかしその格好は、私の住んでいる地域では、キリスト者の女性としては普通の服装でした」
しかし、薬剤師はラケルの服装を問題視した。「私がクリスチャンだと知っているにもかかわらず、彼は私を口汚くののしり、私の服装について文句を言いました。「ラマダンの時期に、どうして髪を出して、こんな服を着ているんだ」。私は彼に「私はキリスト教徒です。私には関係ないことです」と言いました。すると彼は私の顔を2回たたき、侮辱的な言葉を浴びせたのです」
ラケルは、同じ薬剤師が少なくとも他の3人のクリスチャン女性に同様のことをしていたことを知っていたので、警察に行くことにした。「警察署で私は、起きたことをありのまま報告しました。警察官は薬剤師に電話して、薬剤師は確かに私を2回殴ったことを認めました。しかし彼は『ちょっとふざけただけですよ』と言い逃れをしたのです」
警察は、彼女に告訴を取り下げるよう圧力をかけた。薬剤師や村長も警察に同調した。「警察官は、私が訴えを撤回しなければ、病気の息子が待っている家に帰さないと脅したのです。それでも私は、彼らの要求を拒否しました」
結局彼女は、内容が分からぬ報告書に無理やり署名させられた。しかしその報告書には、薬剤師の暴行は無罪であると書かれていたことを、署名をした後に知ったのだ。エジプトの農村部に住むキリスト者は、キリスト教の信仰故に、このようなことに日常的に直面し得るのだ。
昨年、エジプトのキリスト教徒に対する暴力の報告は減ったが、それでもキリスト教徒に対する暴力のレベルは依然として非常に高い。昨年は少なくとも5人のキリスト教徒が殺害され、20人以上の信者が襲撃されるなどの事件が報告されている。さらに、イスラム教から改宗した相当数のキリスト教徒が、エジプトの治安当局によって逮捕され、身体的虐待を受けている。
迫害に直面するエジプトのキリスト教徒のために祈ろう。権利を奪われている私たちの兄弟姉妹に正義がもたらされるように。今日、危険な状況の中で生きている人々のために、強さ、勇気、平安と守りを祈ろう。迫害の中にあっても、エジプトに古くからある教会が輝き続け、多くの人々をキリストのもとに引き寄せることができるように祈っていただきたい。
■ エジプトの宗教人口
イスラム 86・7%
コプト教会 11・6%
プロテスタント 0・9%
カトリック 0・4%