今年5月に、ニューヨークにあるキリスト教系大学であるアライアンス大学(旧ナアック大学)を無事卒業し、学士号を得た私は、大学院に進学し、この秋から神学科で論文のための研究を始めることが決まっていました。しかし、その3週間後、突然ある教授から信じられない連絡を受けました。
「アライアンス大学が年内で閉鎖されるかもしれない」と。「そんなはずはない。現に私は大学院進学の手続きを済ませている。きっと何かの間違い」と当初は思っていました。その信じられないニュースを現実のこととして受け止めなくてはならなくなったのが、6月30日に大学から正式なお知らせが送られてきたときでした。
お知らせの内容は、「6月26日月曜日午後、アライアンス大学は中部高等教育委員会(MSCHE)から、2023年12月31日をもって認定を取り消すという通知を受け取りました。その結果、アライアンス大学理事会は6月29日木曜日、2023年8月31日をもって、キャンパス内およびオンラインでの教育提供を中止することを決議しました」というものでした。
「大学ってそんなに簡単に閉鎖されるものなの?」と驚いていたのですが、調べてみると、今年だけでもニューヨーク市内で3大学が閉鎖に追い込まれたことが分かりました。
例えば、ASAカレッジは、ニューヨークのマンハッタンやブルックリンだけでなく、フロリダ州にもキャンパスを持つ私立大学でしたが、同じく中部高等教育委員会によって今年3月1日に認定取り消しが発表されました。また、マンハッタンにあったキリスト教系大学のキングスカレッジも、今年5月26日に認定取り消しが発表されました。来年春には、同じくキリスト教系大学であるセントジョーンズ大学のスタテンアイランド校の閉鎖も決まっています。他にもニューヨーク州で見ると、今年だけでもメダイユ大学やカゼノビア大学などが閉鎖されています。
米国の大学について調査し、毎年大学ランキングなどを発表しているベストカレッジ(英語)によると、この相次ぐ大学閉鎖はニューヨーク州だけでなく、米国全体の現象だといいます。また、大学閉鎖の影響を受けた学生10人中7人が突然の閉鎖を経験し、大学閉鎖を経験した学生の半数強が再入学しなかったとされています。
調査によると、「2020年3月以降、少なくとも44の公立大学または非営利大学が、閉鎖または合併した、あるいは閉鎖または合併することを発表した」とあります。また、その理由として「新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、高等教育を含むほぼ全ての業界に経済的課題をもたらした。ウイルス封じ込めのためキャンパスは一時的に閉鎖され、一部のキャンパスはロックダウンが解除されても再開するのに苦労した」と述べています。しかし、これはパンデミック以前からあった課題でもあるとしています。「入学者数の減少、授業料の高騰、学位の価値への疑問など、財政的な課題に直面していた」とあり、パンデミックをきかっけに、多くの大学で経営が非常に厳しくなったことが分かります。
閉鎖の理由を見ると、キリスト教系大学は特に入学者数の減少によることが明らかです。キングスカレッジは「重大な財政難と入学者数の減少」を理由として挙げており、神学校として始まり200年近い歴史を持つカゼノビア大学は「出席者数が40パーセント減少した」としています。セントジョーンズ大学も、スタテンアイランド校閉鎖理由として入学者数の減少を主な理由として挙げています。
確かにアライアンス大学も、財政的な問題はありました。しかし、現在のラージャン・マシューズ学長が就任した後は、さまざまな点が改善され、この秋からの新学期以降の入学者についていえば、300パーセントもの増加が見込まれていました。
しかし、物価や家賃の高騰などのあおりを受け、それだけでは運営は厳しいと判断されてしまったようです。良い展望が見えていた矢先のことで、関係者は中部高等教育委員会の決定にショックを隠し切れませんでした。カナダ人神学者のアルバート・ベンジャミン・シンプソン(1843~1919)が創立してから140年以上にわたり、世界中から学生を受け入れてきたアライアンス大学の歴史は、残念ながら突然終止符を打たれることになりました。
大学の閉鎖が急に決まったため、急きょ8月29日夜に、マンハッタン北部のハーレムにある教会「ベテル・ゴスペル・アッセンブリー」で、「最後の卒業式」が行われました。偶然にも、この教会は私が通っている教会です。準備や当日の手伝いも、ボランティアとして関わらせていただくことになりました。ここからは、この「真夏の夜の卒業式」の様子をお伝えします。
140年余り前に神学校として設立された歴史を持つアライアンス大学らしく、式典は賛美からスタートしました。演奏は、アライアンス大学音楽部のタミー・ラム教授、スー・タリー名誉教授に加え、ゲストとして出演したトランペッターのジョン・メンゲスさん、オルガン奏者の高橋あきさんが担当しました。実は突然の閉鎖がなければ、高橋さんは今年秋にはアライアンス大学に入学する予定でした。
続いてマシューズ学長が登壇し、最初のあいさつをしました。「真夏の夜の卒業式とは、私たちは珍しい体験をしています」と述べ、会場を和ませた後、卒業生たちの入場が始まりました。それが終わると、今度は卒業式では珍しい聖餐式がマシューズ学長によって行われました。
マシューズ学長は、「これも珍しい体験です。私たちはこれから先、みんなバラバラになってしまいます。でも心は一つでありたいと願い、卒業式に聖餐式を行うことにしました。私たちは、これからもパンや杯を隣人に分け与えられるような人間でありたいと望んでいます」と述べ、聖餐式を行いました。
学務関係全般の責任を負う大学ナンバー2のプロボストの立場にあるデビッド・ターク副学長が、「アライアンス大学最後の卒業生、約280名をご紹介します」と宣言すると、卒業生一人一人の名前が呼ばれました。卒業生たちは登壇し、学長や副学長らと握手や抱擁を交わしました。卒業生たちの名前が呼ばれる度に、家族や友人たちから歓声が湧き、どこからともなく「ハレルヤ」という声も上がりました。
卒業生たちの登壇が終わると、閉会宣言が行われました。マシューズ学長は、「大学が大変な状況になっていた中、ここにいる教授、事務職員、学生が私を支えてくれたことに心から感謝します。あなたがたがいなければ、今日の卒業式を迎えることはできませんでした」と述べ、言葉を詰まらせる場面もありましたが、最後には「God Bless You」と言ってほほ笑みました。
閉会宣言の後には、音楽部の学生たちが登壇し、会場全体でリチャード・スモールウッドの名曲「トータル・プレイズ」を賛美しました。感極まってすすり泣く声も聞こえました。
最後は祈りで閉会しました。エセックス・アライアンス教会(バーモンド州)の主任牧師でもあるスコット・スローカム理事長は、「今日でアライアンス大学はなくなってしまいます。しかし、アライアンス大学というアルバート・ベンジャミン・シンプソンのDNAは残り続けます。そして、イエスも私たちの中に残り続けます。主は皆さんを次のご計画のために取って置かれていることを忘れないでください」と述べ、学生と卒業生たちのために祈りをささげました。
アライアンス大学のホームページに掲載されたお知らせ(英語)には、アライアンス大学の母体教団である「クリスチャン・アンド・ミッショナリー・アライアンス」(C&MA)の理事会が、大学に併設されているアライアンス神学校については、プログラムを継続する可能性を検討しているとあり、「(これからのために)知恵と導きを求めて一緒に祈ってください」と書かれています。
ただ、マシューズ学長によると、これからどのようになるかは、まだ未定とのことでした。しかし、「私たちの目で見えないことが、神の目には見えています。ですから、主が決めることに従うまでです」と言っておられました。
私たちは天の側で生き、物事を上から見ることを学ばなければなりません。神が見るように、キリストが見るように全てのものを熟考することは、罪を克服し、サタンに反抗し、困惑を解消し、試練を超えて私たちを引き上げ、私たちを世から切り離し、死の恐怖を克服します。(アルバート・ベンジャミン・シンプソン)
幸いなことに、私の場合は、論文の研究テーマを受け入れてくれる大学が見つかり、現在はバージニア州のリバティー大学で大学院生として神学を学んでいます。私も、アライアンス大学の卒業生の一人として、アルバート・ベンジャミン・シンプソンのDNAを受け継ぎ、新天地でさらなる研究を進めています。
また、10月1日には、ベテル・ゴスペル・アッセンブリーで牧師按手(あんしゅ)を受けることが決まっています。この件については、また別途、按手礼式が終わったら、ご報告させていただきます。
◇