「受けるよりも与えるほうが幸いである」(使徒20:35)
ある人が小さなテニスラケットのようなものを家の中で振り回していました。そこへ訪ねて来た友人が「何してるの?」と聞くと、「これは新しいタイプのハエ叩きだ」と言うのです。
友人が「それでよく捕れるのかい?」と聞くと、「アッという間に雄が5匹、雌が3匹捕れたよ」との答え。友人がびっくりして「ハエの雄と雌とがよく分かったネ。どうやって見分けるの?」と聞くと、彼は言いました。
「なーに、簡単なことだよ。女優さんのグラビア雑誌に止まっていた5匹が雄で、電話機の上に止まっていた3匹が雌に決まってるじゃないか」
確かに人間も、その人が何に関心や興味を持っているかによって、その人の人柄や性格を知ることができます。人の興味や関心は大きく2つに分けることができます。それは「集める」ことと「与える」ことです。集める人は富や名声、地位や権力を追求する人生を歩みますし、与える人は他人の弱さや貧しさ、悲しみや痛みに寄り添う人生を歩みます。
ヘンリー・ランドワースさんは、ベルギーで生まれたユダヤ人です。幸せな家庭に生まれましたが1940年、ナチスが家に押し入って来たとき、彼の幸せは粉々に砕かれました。ナチスの兵隊たちは彼の父親を銃で撃ち殺し、母親も殺し、彼自身もアウシュビッツの強制収容所に送られました。収容所の中で彼は兵士にライフルで撃たれ、瀕死の状態のまま放置されましたが、奇跡的に生き延びることができました。
このような体験をした人の人生は悲惨なものとなっても不思議ではありません。しかし彼は、誰かを恨んだり憎んだりする人生を生きることを選ばずに、別の人生を歩むことを選びました。彼は戦後20ドルくらいのお金を持って米国に渡り、ホテルのボーイからスタートし、苦労の末、ホテルのオーナーにまでなります。
彼は今「ギブ・キッズ・ザ・ワールド」という慈善団体を運営しています。その活動とは、不治の病にかかった子どもたちをフロリダのオーランドにあるディズニー・ワールドに連れて行くという活動です。
彼がこの活動を始めたきっかけは、ホテルの支配人をしているとき、ある家族客が予約をキャンセルした事情を知ったことです。ディズニー・ワールドに行くのを楽しみにしていた娘さんが急に亡くなってしまったからでした。重度の難病だったその子の最高の夢が「ミッキーマウスに会うこと」だったのです。これを知ったヘンリーさんは1986年に施設を設立しました。
毎年無料で招待される74人の子どもと家族は、航空券、食事、宿泊、遊園地のチケットを提供され、夢のような1週間を過ごします。
「ギブ・キッズ・ザ・ワールド」の施設には、小さな教会が併設されています。晴れた日にはいつも窓から優しく包み込むような陽の光が差し込みます。
そこには一冊のノートが置いてあります。ノートには、不治の病にかかった子どもたちと、彼らの家族のメッセージが書き込まれています。そこに書かれたメッセージは、自分の身の上に降りかかった出来事への恐れや悲しみ、怒りを受け入れ、人生に感謝し、愛を素直に受け取った心安らかな言葉で満ちあふれています。
そして、そこにはいずれ訪れるであろう死でさえも受け入れようとする子どもたちの言葉がたくさん書きつづられています。
ヘンリー・ランドワースさんは言います。
「お金は多くのものを引き出すことができるため、お金は人間を貪欲にします。お金があるかないかなど、人生の生き甲斐には関係ありません。人の立場に立ち、自分がこのような病気だったらどう思うかを考えるのです。人の役に立つ喜びこそ、人生を素晴らしいものにしてくれるのです」
イエス・キリストも「受けるよりも与えるほうが幸いである」と言われました。人が一生を終えて残せるものは、集めたものではなく、与えたものだからです。
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