1月7日にカナダで施行されたC–4法案に反対して、北米の牧師たち4千人以上が抗議の声を上げた。この法案は、同性愛者を異性愛者に立ち返らせる「転向療法」を禁じるもので、違反すると最高5年の実刑が課せられる。
先月のニュージーランドを取り上げた課題でも触れたが、近年この手の法案の成立を目指す世界的潮流が目まぐるしい。カナダでは昨年12月8日に、何の反対もなく全会一致でこの法案が可決され、王室の承認を受けて施行された。
このC–4法案の問題点は、仮に本人が異性愛への転向を望んだとしても、それを助けるセラピーや療法、祈りなどが一切違法とされる点だ。またC–4の前文では、健全な異性愛を「神話」「固定観念」として「有害」だと述べている。これは明らかに聖書的価値観を狙い撃ちにしているのみならず、仮に聖書的なキリスト教徒でなかったとしても伝統的保守的な価値観を支持するすべてのカナダ国民に対する挑戦とも受け取れる。この法案前文は、民主的な政府の作成したものとは思えないほど中立性を欠く。
トルドー首相は「卑劣で屈辱的な転向療法の慣行を禁止する行政立法が国王の裁可を受け法律になった」とツイートし、性的少数者とその権利のために立ち上がると豪語した。
転向療法の禁止法の成立状況を見ると、地中海の島国マルタは2016年に、20年5月にはドイツ議会も未成年や、強制・脅迫などによる成人への転向療法の実施を禁じた。LGBT支援団体によると、米国では20州と100以上の自治体で同療法が禁止されているという。
キリスト教の立場から自由と人権を擁護している自由連合カナダによると、「C–4法案の文言は非常に広範で、同性愛やトランスジェンダーなどの性的罪に束縛されている人々の生活に聖書の真理を語ろうとするキリスト者を刑事訴追することを可能にしかねない」としている。
1月16日には法案成立に抗議して、北米の4千人以上の牧師が日曜礼拝の講壇から、聖書が説く人間の性について説教した。
以前、COVID-19における礼拝規制をめぐるロサンゼルス郡およびカリフォルニア州政府を相手取った訴訟問題(裁判は教会側が勝利した)で取り上げた米国人牧師のジョン・マッカーサー氏は説教の中で、「トランスジェンダーなどというものは存在しない」「あなたにあるのはXX染色体かXY染色体のどちらかです。神は人間を男性と女性に創られたのです。それが遺伝的、生理的、科学的、そして現実的に定まっているのです」と、聖書的、科学的見解からの性を述べ、「私たちは、この破壊的なうそと欺瞞(ぎまん)に立ち向かう必要があります。しかし他方でその対決によって、すでに存在するもの、つまり人間関係の中で(同性愛者らが)感じている孤立感を助長することがあってはなりません」と付け加えた。
翌日の月曜日、彼はフォックスニュースで「最終的に(C–4の)反対派となる者たち、つまり屈服しない者たちは、聖書に忠実な人々なのです」と述べた。
ところが、彼の礼拝説教がユーチューブから検閲され削除されるという新たな事態に発展している。ユーチューブ側の言い分としては、これは「ヘイトスピーチに当たる」というのだ。
マッカーサー氏の教会がCOVIDによって閉鎖されようとしていた際、弁護を成功させたジェナ・エリス弁護士(トランプ大統領の法務顧問も務めた)は、これを非難して「米国の大手ハイテク寡占企業は、真理と聖書を教える牧師の権利を検閲することによって、カナダの非常識な法律と同等のものを実施しています」と述べ、「ハイテク企業の暴走を止めなければ、この新体制は憲法を迂回(うかい)して、宗教を語り、宗教を行使するわれわれの基本的な権利を封じ込め、その影響は壊滅的なものになるでしょう。私は、ジョン・マッカーサーと、毅然(きぜん)として聖書の真理を教える世界中のすべての牧師たちと共に立ち、米国の教会を守るために戦い続けます」と続けた。
ユーチューブのような公共性のある世界規模の動画プラットフォームが、正統な聖書教理をヘイトスピーチ扱いする時代になったことをわれわれはよくよく覚える必要があるだろう。われわれが直面している危機は、聖書的男性観、聖書的女性観の崩壊だけではない。われわれが信仰的確信に従って生きる信仰の自由が、人権や人道の名の下に脅かされつつあるのだ。
信教の自由は炭鉱のカナリアだとよく言われる。つまりそれが奪われるなら、他の自由も容易に奪われるようになる。
教会の行動原理はいつの時代も「損か得か」ではない。「真理か偽りか」だ。真理の最前線に立つ北米の兄姉たちを覚え、彼ら真理の僕が最後まで立つべきところに堅く立つように祈っていただきたい。
■ カナダの宗教人口
プロテスタント 10・14%
カトリック 40・9%
イスラム 2・9%