ローマ教皇フランシスコは、欧米諸国を悩ませている「人口統計学的な冬」について言及し、複数の犬や猫を飼うことが、子どもを持つことの代わりになるという考え方に異議を唱えた。
5日の一般謁見(英語)で教皇は、出生率が低下していることを嘆き、今日の社会にまん延している「ある種の利己主義」を批判した。
「私は先日、人々が子どもを持ちたくない、あるいは、子どもは一人だけでそれ以上は持ちたくないとする人々がいる昨今の人口統計学的な冬について話しました。そして多くの夫婦が、子どもは欲しくないからつくらない、あるいは一人しかつくらない、しかし2匹の犬や2匹の猫を飼っているのです。そう、犬や猫が子どもの代わりとなっているのです」
教皇は、こうした行いは「父性や母性を否定する」とし、「私たちを損ない、人間性を奪う」と指摘。「父性と母性は、人の人生の充実につながるものです」と語った。また、「自然(出産)であれ、養子縁組であれ、子どもを持つことは常にリスクが伴う」ことを認めながらも、「子どもを持たないことの方がよりリスクがある」と語った。
「父性や母性を否定することは、それが実際のものであれ、霊的なものであれ、よりリスクがあります。父性や母性の感覚を養うことを否定する男性や女性は、何か根本的なもの、重要なものが欠けているのです」
教皇は、少子化がもたらす長期的な影響に警鐘を鳴らした。
「文明は、父性や母性の豊かさを失うことで老齢化し、人間性を失っていきます。そして、私たちの祖国は子どもがいないために苦しみ、いささかユーモラスに言われているように、『子どもがいない今、誰が私の年金のために税金を払うのか、誰が私の世話をするのか』となるのです。人は笑ってそう言いますが、これが真実です」
米国を含む欧米諸国では、出生率の低下が続いており、女性が産む子どもの数が前の世代より少なくなっている。
米ピュー研究所のデータ(英語)では、米国の一般出生率(15歳から44歳までの女性千人当たりの出生数)が、2018年に59と過去最低を記録した。これは、ベビーブーム最盛期であった1960年の120の約半分の数字だ。
合計特殊出生率(現在の出生パターンが続いた場合に平均的な女性が生涯に産む子どもの数を仮想的に示す指標)も同様に低下している。1960年は、女性が1人当たり平均して約3・6人の子どもを産んでいたが、2018年には1・73人にまで減少し、同じく過去最低を記録した。
5日の一般謁見は、「イエスの養父としての聖ヨセフ」がテーマだった。教皇は「古代の東洋では、養子縁組制度が非常に一般的だった」とし、ヨセフはイエスの養父であり、真の父は神であると言い、次のように述べた。
「私たちは、悪名高い孤児の時代に生きているのではないでしょうか。不思議なもので、私たちの文明は孤児のようなもので、孤児性が伝わってくるのです。本当の父である神の代わりとなられた聖ヨセフよ、どうか現代の私たちに、有害なこの孤児意識を解決する方法を理解する手助けをしてください」
教皇は、「私は養子縁組という方法で命を迎えようとするすべての人々のことを特別に考えています」と言い、「このような選択は、最高の愛の形であり、父性、母性の形です」と強調。「世界にはどれだけの子どもたちが、自分の面倒をみてくれる人を待っていることでしょうか。また、父親や母親になりたいと思っていても、生物学的な理由でなれない夫婦、あるいは、すでに子どもがいるにもかかわらず、家族のいない子に、家族の愛情を分け与えたいと思っている夫婦がどれだけいるでしょうか」と投げ掛けた。
その上で教皇は、養子縁組により「子どもを迎えるという『リスク』を負うこと」を促し、「誰も、父の愛の絆を奪われたと感じることがないように」と祈り求めた。