1970年に京都で第1回世界大会が開催されたのを契機に発足した国際NGO「世界宗教者平和会議」(WCRP)の創設50周年を記念する式典とシンポジウムが24日、国立京都国際会館で開催された。「Our Heart for All Beings(共にすべてのいのちのために)〜宗教協力の新たな扉〜」をテーマとし、シンポジウムでは京都大学前総長の山極壽一(じゅいち)氏と宇宙飛行士の山崎直子氏が基調講演。最後には、2030年までの行動目標をまとめたWCRP日本委員会の「アジェンダ2030」が発表された。
WCRPの構想は1968年、京都で日米の宗教指導者が平和会議を開いたことに始まる。当時はベトナム戦争のただ中にあり、世界平和のために宗教者が力を合わせようと、2年後に第1回世界大会を開催することを決めた。そして70年に世界39カ国から300人を超える宗教者が集まり、「非武装」「開発」「人権」を基調テーマに第1回世界大会を開催。累積する世界の課題に対し宗教者が担うことのできる役割を話し合い、「京都宣言」を採択した。
その後、着実に世界的なネットワークを広げていき、94年にローマで開催した第6回世界大会では、当時のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が開会式に出席。「平和のためにわが身をささげることによって世界の傷を癒やすことは私たちの使命です」と、宗教者のより強い連帯を訴えた。日本委は72年に日本宗教連盟の国際問題委員会を母体として発足し、世界90カ国以上に広がるWCRPのネットワークの一員として活動している。
記念式典では、こうした50年の歩みを映像で振り返り、WCRP日本委会長の庭野日鑛(にちこう)氏(⽴正佼成会会⻑)が開会あいさつ。また来賓として、日本宗教連盟理事長の大柴譲治氏(日本福音ルーテル教会総会議長)、WCRP国際委事務総長のアッザ・カラム氏、日本オリンピック委員会会長の山下泰裕氏があいさつを述べた。WCRPの活動を支えてきた物故者への献花の時も持たれ、その後には広島の原爆爆心地から2キロの小学校で被ばくし、その後修復が行われた「被ばくピアノ」によるコンサートが行われた。
続くシンポジウムで基調講演を行った人類学・霊長類学者の山極氏は、人類の脳の発達は言葉の発生よりも以前に見られ、より大きな集団で暮らすようになったことによる社会的複雑さに原因があると考えられていることを紹介。類人猿との比較から、人類のみに見られる特徴として「共食」と「共同保育」を挙げ、こうした言葉の発生以前からあった特徴が人類の「共感力」を高めていったと考察した。その上で、情報革命が起きた現代社会は、言葉などによって表現される情報ばかりが重んじられ、情緒的社会性が疎かにされているとし、「われわれは現実よりもフィクションに生きている」と指摘。言葉だけでなく、食事やスポーツ、芸術など五感を用いる交流によって、互いが共鳴し合えることを知ることが重要だとし、「それがまさに人類が進化の上で達成した『共感力』を生かした社会を作ることにつながる」と語った。
2010年に日本人2人目の女性宇宙飛行士として国際宇宙ステーション(ISS)に滞在した山崎氏は、宇宙生活の様子を紹介。イスラム教徒として初めてISSに滞在した宇宙飛行士が、1日5回とされている祈りを1日1回としながらもメッカに向かって祈っていたことや、聖書を持ち込んでいた宇宙飛行士がいたこと、またロシアで有人宇宙船「ソユーズ」が打ち上げられるときには、ロシア正教会の司祭による儀式があることなどを紹介し、「技術と祈りが共にある」と語った。また、人類が宇宙に出てからこの半世紀余りで、分かったこと、分かっていないことを紹介しつつ、「分断やさまざまな対立が起こっているからこそ、危機感を共有し、協力していくことが大切だと思っている」と伝えた。
2人の基調講演後の「宗教者からの応答」では、4宗教の代表者が登壇。カトリック信者の森脇百合氏(日本聖書協会主事補)は、「これからの人類が、宇宙という神が与えた場で互いの命を慈しみ合いながら、地球と宇宙を未来につなげていくことが大切だと思わされた」とコメント。ローマ教皇フランシスコが2年前に来日し、東京ドームで行ったミサで伝えた説教に言及しつつ、「病気や障害のある人、高齢者や見捨てられた人々、難民や外国からの労働者など、より多くの小さくされた命が脅かされているのが今だと思う。このような時に、宗教者である私たちが対話を重ね、手を取り合っていくWCRPの活動が大変重要であると再認識した」と語った。
シンポジウムの最後には、WCRP日本委の「アジェンダ2030」が発表された。策定チームの一人一人が6つのアジェンダ(行動目標)と、その達成を目指す上での8つのマインドセット(心構え)を読み上げ、WCRP日本委事務局長の篠原祥哲(よしのり)氏が「We」と声を上げると、会場も大きな声で「Can Do It」と応じた。
閉会あいさつに立ったWCRP日本委理事長の植松誠氏(日本聖公会主教)は、「世界平和を脅かすさまざまな状況が複雑化、深刻化する中、私たちWCRP日本委も新たな挑戦に向かって立たされている」と指摘。シンポジウムでは「宗教者が世界平和構築に取り組む上で大切な理念を再確認できた」とし、「アジェンダを実現していくためには、私たち宗教者のさらなる協力とアドボカシーが必要となる。そしてそれ以上に、私たちの祈りを結集していかなければならない」と訴え、これからの活動のための協力と祈りを呼び掛けた。
■ WCRP日本委員会アジェンダ2030
<6つのアジェンダ>
- 国際的 “サバイバル” 目標達成に向けた世界の宗教ネットワークの強化
- 気候危機の打開に向けたグローバルサウスとの連携
- 非武装による戦争のない世界の実現に向けた政治との対話
- 異常な経済的格差の解消に向けた経済界との対話
- 人とのつながりの醸成に向けた草の根コミュニティー活動の強化
- ケア(慈しみの実践)が重視される社会に向けた公共における宗教活動の実施
<8つのマインドセット>
- 祈りと行動の一致:「祈りに基づく行動」「行動を通した祈り」という祈りを行動の中心に置く
- 握る手の温かさ:世の中の苦しみ、悲しみをいたみ、苦境で喘(あえ)ぐ人々の手を握り、温もりを伝える
- Go To Problem:自らが問題に向かう
- 人類家族と分け合う:世界のあらゆる人を隣人として迎え入れ、分かち合いの生き方を実践する
- 一人一人が大切:一人一人を大切にする
- Understand=下に立つ:支援を通して、学び・理解しようとする謙虚さを持つ
- 開いてつながる:開かれた心でつながる
- 次世代の声と共に:将来世代への配慮を常に念頭に置く
※ アジェンダ2030の詳細はこちら。