イスラエル南部で、旧約聖書の士師記の時代に書かれた貴重な銘文が見つかった。発見されたのは、水差しの一部とみられる約3100年前の土器片で、「エルバアル」という名前が記されていた。これは、士師記に登場するミディアン人に勝利したイスラエルの士師で預言者のギデオンの別名として知られている。
発掘チームを主導する考古学者のヨーゼフ・ガーフィンケル氏(ヘブライ大学教授)とイスラエル考古学庁(IAA)のザール・ガノール氏は、「エルバアルという名前は、聖書の士師記の中で、士師ギデオン・ベン・ヨアシュの別名として親しまれています」と語った。
「ギデオンはまず、バアルの祭壇を壊し、アシェラ像を切り倒すことで、偶像崇拝と戦ったとされています。その後、ヨルダン川を渡って農作物を略奪していたミディアン人に勝利したことが、聖書の伝承として記されています」
「聖書によると、ギデオンは300人の小さな軍隊を組織し、マアヤンハロド付近で夜にミディアン人を攻撃したとされています。シェフェラとジェズリール渓谷の地理的な距離を考慮すると、この銘文は聖書に登場するギデオンではなく、別のエルバアルを指している可能性がありますが、この水差しが士師ギデオンのものである可能性も否定できません」
「いずれにしても、エルバアルという名前は、聖書の士師記の時代に一般的に使われていたことは明らかです」
銘文は水差しにインクで書かれており、考古学者らは水差しが個人の所有物であったことを示していると考えている。
銘文は、ヘブライ大学、IAA、シドニーのマッコーリー大学の考古学者らによるイスラエル南部の都市キリヤットガット近郊での発掘調査で出土した。水差しは約1リットルの容量があり、油や香水、薬などの貴重な液体が入っていた可能性があり、地面を掘って石を敷き詰めた貯蔵穴の中から見つかった。
今回の発見は、考古学者らを興奮させた。エルバアルという名前が聖書以外の考古学的な文脈で発見されたのはこれが初めてで、しかもそれが士師記の時代である紀元前1100年ごろの地層から発見されたからである。
発掘チームによると、士師記の時代の銘文はイスラエルでも非常に珍しく、ほとんど例がない。過去に発見されたものはほんの一握りしかなく、いずれも無関係な文字が多数記されているにすぎなかったという。
発掘チームは、「ご存じのように、聖書の伝承が現実を反映しているかどうか、士師記の時代やダビデの時代の歴史的記憶に忠実であるかどうかについては、かなりの議論があります」と話す一方、次のようにも語った。
「エルバアルという名前は、聖書では士師記の時代にしか登場しませんが、今回、考古学的にもこの時代の地層から発見されました。同じように、ダビデ王の統治時代にしか聖書に出てこない『エシュバアル』という名前が、ヒルベト・ケイヤファ遺跡のその時代の地層から発見されています。聖書に同一人物の名前が記載されていることや、考古学的な発掘で出土した銘文からも同一人物の名前が見つかっていることから、当時の記憶が保存され、世代を超えて受け継がれてきたことが分かります」