東京電力福島第1原発の敷地内にたまる処理済み汚染水の処分方法について、政府が国の基準を下回る濃度に薄めた上で海へ放出する方針を決めたことを受けて、日本キリスト教協議会(NCC)は15日、政府の方針に抗議し撤回を求める声明を発表した。
声明は、1リットル当たり1500ベクレル未満とする放射性物質「トリチウム」の濃度について、政府が国の基準の40分の1と説明する一方で、実際には排水中に含まれるその他の放射性物質を考慮するなどした際、規制上満たされなければならない基準値に当たると指摘。「政府はそのことを正確に伝えておらず、ただ人々の不安を解消させることがもくろまれ、結果的に誤解を与えることになる」と厳しく非難した。
また、実際には現在のタンク貯蔵が2年後に満杯になることを理由に海洋放出という処分方法を選択するにもかかわらず、放出されるトリチウムの排出量と基準値の議論をすることは、後付け的な詭弁(きべん)とのそしりを免れないと指摘。「むしろ福島第1原発のトリチウム汚染水の海洋放出を断念することは、福島以上にはるかに大量のトリチウム汚染水の海洋放出が必要となる六ヶ所村核燃料サイクル処理工場による海洋放出に影響をきたすことを、政府は懸念しているのではないかと疑念を抱かざるを得ない」とした。
海洋放出以外に道はないとする政府の主張についても、堅固な大型タンクによる地上での保管や、モルタル固化処分についての可能性を専門家が示していると指摘。「地元の漁業に携わる人々に対して、あまりにも説明を怠った専断的な決定であり、このことはいたずらに風評被害を助長するほかない」と批判した。
さらに、トリチウムが人体に与える影響については、トリチウムが人の体内で「有機結合型トリチウム」に変化することにより、人体に極めて深刻な内部被ばくをもたらすことを警告する北海道がんセンターの西尾正道名誉院長の見解を紹介。人の体内に長く蓄積されることなく排出されるとする政府の説明に疑義を呈した。
その上で、これまでの原子力事業について「尊いいのちと美しい自然環境の生態系に対する、その破滅的破壊を顧みない人間のむさぼりの罪」と主張。「今一度、いのちと自然に対する畏敬と慈しみのこころを取り戻し、清らかな川のように流れさせながら、このいのちと地球環境に対する破滅的破壊行為を続ける貪欲文明の隷属から解放される道を、勇気と英知をもって決断しなければなりません」と訴えた。