今年もレントが始まった。レントは「灰の水曜日」(今年は3月6日)に始まり、イースター(復活祭、今年は4月21日)で終わるキリスト教の教会暦に基づく期間だ。日本では、カトリックは「四旬節」、聖公会は「大斎節」、プロテスタントの一部の教派は「受難節」などと、呼び方はさまざまだが、毎年、世界各地で多くのクリスチャンがこのレントを守っている。イエス・キリストの受難を覚え、自らの罪を悔い改めるこの期間、信者たちは、断食や食事の節制をしたり、あるいはチョコレートからSNSに至るまで、自分が好きなものを控えたりする。
レントの期間は40日間とされるが、正確には日曜日以外の40日と、日数に含めない6回の日曜日を合わせた46日間。この40という数字は、イエスが公生涯に入る前に受けた「荒れ野の誘惑」の40日間など意味がある。
一方、米ライフウェイリサーチの調査(英語)によると、レントを守るのは敬虔な信者だけではない。宗教的か否かを問わず、米国人の25パーセントが何らかの形でレントに関わっているという。
以下に、なぜ紫がレントを象徴する色になったのかや、灰の水曜日で用いる灰の意味など、レントにまつわる5つの事柄をまとめた。
レントの色、紫の起源
紫はレントを象徴する色だ。教会暦に合わせた典礼色を用いる教会では、レントの間、聖卓(祭壇)や説教壇のテーブルクロス、牧師や司祭の祭服やストール、十字架の装飾や花までが、「悔い改め」を表す紫に変わる。
英BBC(英語)によると、紫が使われる意味は2つある。まず初めに、紫は喪に伏すことに関連している。主の十字架の痛みや苦しみを先取りするのだ。
イエスに対する嘲笑のしるしとして、総督ピラトはイエスを「ユダヤ人の王」と呼び、紫の服を着せた。マルコによる福音書15章17節にはこう書かれている。「(兵士たちは)イエスに紫の服を着せ、茨の冠を編んでかぶらせた」
第二に、紫は王族を示す色であり、キリストの復活と主権を祝う色だ。古代のローマでは、ティリアン・パープル(貝紫色、澄んだ赤みの紫)は地位を象徴していた。米スミソニアン学術協会運営のウェブサイト「スミソニアン・ドットコム」(英語)によると、アッキガイ科の巻貝から抽出されるティリアン・パープルの染料は非常に高価だったため、容易には手に入れられなかったという。
灰の意味
世界各地では「灰の水曜日」にミサや礼拝が行われ、レントが始まる。この日には、礼拝者の額に灰で十字の印を付ける「灰の式」を行う教会もあり、伝統では、礼拝者たちは額の上に1日中、灰を付けたままにする。この灰は自分の罪を嘆く象徴であるとともに、罪の清めと罪に対する悲しみも表す。
聖書には、灰の水曜日について具体的に述べられていないが、粗布をまとい、灰をかぶって悔い改め、嘆く行為は旧新約聖書の至るところに見られる。
旧約聖書のダニエル書9章3節には、捕囚の身となっていたイスラエルの民が、バビロンから解放されることを主に求める預言者ダニエルについて、次のように書かれている。「わたしは主なる神を仰いで断食し、粗布をまとい、灰をかぶって祈りをささげ、嘆願した」
また、同じく旧約聖書のヨナ書3章6~7節には、「このことがニネベの王に伝えられると、王は王座から立ち上がって王衣を脱ぎ捨て、粗布をまとって灰の上に座し、王と大臣たちの名によって布告を出し、ニネベに断食を命じた」と記されている。
一部の教会では、前年のパームサンデー(イースターの1週間前の日曜日、「枝の主日」「棕櫚〔しゅろ〕の主日」とも)のミサや礼拝で使われたナツメヤシに似た葉の枝が保存されており、灰の水曜日で用いる灰を作るために燃やされる。
最も人気があるレントの節制は食事の制限
インターネットの普及により、ツイッターのユーザーたちがレントで控えるとコメントしているものをリアルタイムで確認することができる(リンク)。
今年、最も多くの人が控えるカテゴリーは食べ物で、お菓子やソーダ、砂糖、チョコレート、肉などだ。次に、テクノロジー、タバコ・薬物・アルコール、習慣、皮肉などが続いた。個別の項目では、SNS、ツイッター、アルコール、チョコレート、肉を控えるという人が多く、昨年もほぼ同様だった。
一方、クリスチャンの大半は、日頃楽しみにしているものを控えるが、そうした節制には重点を置かない信者もいる。彼らはボランティア活動をするなど、他の人のために自分をささげることに重点を置いている。
レント遵守の割合が最も高いのはカトリック
ライフウェイリサーチの別の調査(英語)によると、米国では福音派の約3割(28パーセント)がレントを守っている。一方、レントを守る割合が最も高いのはカトリックで、6割以上(61パーセント)がレントを守っており、3人中2人(64パーセント)がこの期間に好きな食べ物や飲み物を絶つという。プロテスタント(福音派以外)の約2割と福音派の28パーセントは、レントを守っていない可能性が高い。
また、全体として米国人の4人に1人(24パーセント)がレントを遵守している。民族別ではヒスパニック系がレントを守る割合が最も高く、36パーセントとなっている。興味深いことに、ヒスパニック系は白人よりも好きな行いや悪習慣を控える割合が高く、それぞれ34パーセント対17パーセント、50パーセント対30パーセントとなっている。
ライフウェイリサーチのスコット・マコーネル所長は、全体的に見た場合、レントは社会全般に普及するものではなく、宗教的な行事にすぎないと指摘する。
「レントの目的は、人生をエンジョイすることではありません」とマコーネル氏。「レントを守る人の信条は、神の願いに意識を向けるために自分が望むものを控えるというものです。そういう意味で、(レントは)余り人気がないのです」
レントの初の言及はニカイア公会議
レントという言葉そのものは、アングロサクソン語で春を意味するレンクテン(lencten)と、レントの期間の大部分が該当する「3月」を意味するレンクテンティッド(lenctentid)から派生している。
カトリック教育資料センター(英語)などによると、教会史の中で最も早くレントに言及したのは325年のニカイア公会議。今日の教会では「ニカイア信条」と呼ばれる信仰告白で最もよく知られている公会議だ。このニカイア公会議では20箇条のカノン(教会法)も制定されており、カノンの第5条はレントについて述べている。
10世紀になると、英国人修道士、エインシャムのエルフリクスが、8世紀に起源のある慣習をイースター前の期間に行うよう勧めている。エルフリクスは次のように書いている。「レントの初めに、頭の上に灰をまくという小さな行為を行いましょう。この行為は、レントの期間に罪を悔い改めるべきであることを象徴するものです」