遺産を相続する人は、大抵の場合は大人です。子どもがたとえ膨大な財産を相続することになったとしても、使い方が分からないので、成人するまでは後見人や弁護士が管理し、実質的に相続するのは大人になってからということになります。
でも早い段階で、すなわち子どもの時に財産を相続させないと手遅れになるケースがあります。箴言22:6 には「子をその行くべき道に従って教えよ、そうすれば年老いても、それを離れることがない」と書かれています。すなわち、財産相続のタイミングの重要性が示されているのです。「行くべき道に従って生きる」という生き方は、ほっておいても自然に身に付くというものではなく、財産を相続させるときと同じように、「正しい生き方」を教え、相続させなければならないということです。
では、「子」とは何歳の子どものことでしょうか? ユダヤ人世界では、7歳までにこの財産を相続させなければならないと考えられています。「そうすれば年老いても、それを離れることがない」となるわけです。
実は「正しい生き方」の教育だけでなく、楽器演奏とかスポーツ技術なども、練習するときの年齢により、到達レベルが全く異なることが分かっています。いろいろな分野のいろいろな人たちの体験談を総合的に判断すると、それらの財産を良い形で相続できる年齢の分岐点は、9歳ごろのようです。すなわち、9歳になる前に相続させた財産はしっかりと受け継がれ、一生の財産になるけれど、それ以降に練習を始めた場合、身に付きにくくなり、また生涯持ち続けることのできる財産にはなりにくいということになります。
創造主なる神が人を造られたとき、年齢により脳の働き方が異なるように設計されたようです。すなわち、子どもの時にしか相続できない事柄があるということです。ですから、聖書は子どもに対する教育の重要性をいろいろなところで語っているわけです。
早く相続させないと手遅れになる最も典型的な例は、「ことば」です。大抵の場合、親は手遅れになると心配する前に、あるいはそんなことを全く意識しないで、生まれたばかりの子どもとの会話を始めます。赤ん坊は何も分からないから、「ことば」を教えるのは2~3歳になってからで良いと考える親は1人もいません。それどころか、子どもが2歳になってもほとんど話さない場合、心配になって医者に相談するでしょう。
このように、親は本能的に手遅れになる前に子どもに「ことば」という財産を相続させます。そして9歳までに蓄積された「ことば」は、10歳~12歳の時期に母国語として脳に定着します。でも、世の中には異常な親がいて、子どもをおりに閉じ込め、語りかけることもなく食事だけを与え続けたという虐待劇もあります。あるいは、親とはぐれてしまった子どもが、動物に育てられたという話も聞きます。
いずれのケースでも、9歳までに「ことば」が与えられなかった子どもは、保護された後、「ことば」の習得に困難を覚えます。そして12歳まで放置された子どもは、一生「ことば」を習得することができません。箴言22:6を「ことば」に置き換えて表現すると、次のようになります。「子どもが9歳になるまでにことばを教えよ、そうすれば年老いても、それを離れることがない」。これが母国語という意味です。10歳以降、特に13歳以降から学ぶ「ことば」はあくまでも外国語で、母国語という財産にはなりません。
「うちの子どもに何歳から英語を習わせたらようでしょうか?」という質問をよく受けますが、子どもを本当の意味でバイリンガルに育てたいのか、あるいは英語という外国語が得意な子どもに育てたいのかにより、そのタイミングが異なります。
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