楽器を演奏できる人がいない、ピアノを少し弾けるからオルガン伴奏を頼まれている――奏楽奉仕にまつわる悩みや不安を抱えている教会関係者は少なくない。そんな人々のニーズに応えようと、楽器販売や音楽レッスンを展開する菅波楽器株式会社(スガナミ楽器、東京都町田市)が1月28日、スガナミ楽器経堂店(東京都世田谷区)で、プロのオルガニストによる無料レッスン「ちょっと訊きたい、教会オルガン演奏のヒント」を開催した。地域の教会関係者など約10人が集まり、賛美歌、聖歌、奏楽曲などを演奏する際のちょっとしたヒントやポイントを実際のクラシックオルガンに触れながら学んだ。
講師を務めたのは、同店でクラシックオルガンコースを担当しているオルガニストの林クリスティーナ香利さん。ピアノの教師をしているがオルガンは全くの素人という人や、オルガンを習い始めて勉強中だという人、エレクトーンとは違って片足だけではなく両足を使うことに抵抗を感じるという人など、参加者のレベルはさまざまだったが、聖オルバン教会(東京都港区)のオルガニストとして、実際の礼拝や結婚式での奏楽を行っている林さんは、自身の豊かな経験に基づき、参加者の必要を丁寧に聞きながら要望に合わせた説明を行った。
近隣の教会に案内が出されたということもあって、教会の奏楽に携わるクリスチャンの参加者も多かった。今回のレッスンを牧師から紹介されたという人は、「ピアノもあまり得意ではないが、他に弾ける人がいないので教会の小さなパイプオルガンを弾いている。オルガンの理屈も分からず、足の使い方も知らないので普段は手だけで弾いており、困っていることだらけ」と話した。また他にも、「教会の奏楽奉仕をいつ頼まれるか分からないので勉強しようと思った」「教会にあるオルガンを見ていて、子どもに習わせたいと思った」「教会では長くリードオルガンを演奏しているが、奏楽全般について話を聞きたいと思った」という声が聞かれた。クリスチャンでなくとも、ミッションスクール出身だという参加者の一人は、「礼拝堂のオルガンでの賛美歌にずっと憧れを持っていて、弾き方を知りたいと思った」という。
レッスンに使用されたのは、株式会社ヤマハミュージックジャパン(ヤマハ、静岡県浜松市)がイタリアから輸入している「バイカウント クラシックオルガンChorale2」で、パイプオルガンの音色だけを再現した電子オルガン。長いパイプが目を引く本物のパイプオルガンとは異なるシンプルなデザインで、教会の現場や、奏楽者の自宅練習などに幅広く用いられているという。林さんは、パイプの長さを変えることによって音階を作っているという、簡単なオルガンの構造の説明から始めた。レッスンは約2時間かけてじっくりと行われ、2段になっている鍵盤の使い方、強弱の付け方、そして、パイプオルガンの最大の特徴ともいえる音色の混ぜ方にまで説明は及んだ。
礼拝の最初に歌われる賛美歌は強い音同士を組み合わせた華やかな音色で、聖餐式に際しては弱い音同士を組み合わせた静かな音色でと、林さんは実際の礼拝を想定した実演を交えながらレクチャーを進めた。参加者はオルガンを囲んで、食い入るようにその手元を見つめ、熱心にメモを取りながら説明に聞き入った。「足はどう動かせば良いのか」「教会の奏楽では、楽譜のフェルマータの指示にどこまで従うべきか」といった多くの質問も積極的に投げ掛けられた。
林さんは教会での奏楽について「礼拝は1週間の始まり。悩みのある人であっても、賛美歌を歌って気持ちよく教会を出て行けるような助けとなる奏楽をするのが私たちの役割」と話す。楽器の良さを最大限に引き出すためのアドバイスをしつつも、演奏技術を高めることだけが大事なのではなく、奏楽者が負担に感じることなく気持ち良く奉仕できることが重要だと参加者を励ました。「気持ちを整えて牧師の言葉を聞き、焦らずゆっくり弾いて大丈夫。難しい楽曲ならば、教会員の歌い方のくせに合わせてメロディーラインを片手で弾くだけでもいい。自信を持って!」
今回のレッスンを後援したヤマハのクラシックオルガン担当者は、オルガンの持つ魅力を「その歴史の長さや音色の美しさはもちろんだが、ピアノと違うのは、本物のパイプオルガンは作者によって一台一台オリジナルで、音色や響きが違うので、一台ごとの新しい出会いの楽しさがあるところ」と話す。「電子オルガンで練習を重ねることで、教会やホールで本物のオルガンを弾く喜びにつなげてもらいたい。両手両足を使うので、美容と健康のためにもお薦め」だという。
主催者であるスガナミ楽器の担当者は、「教会で奏楽をやっている人は質問を誰かにする機会があまりないということを耳にし、そのような隠れたニーズに応えることができればと、このようなオープンな場を設けることにした。今回だけでは聞ききれないほどにたくさんの質問があるということが分かったので、メーカーと相談しながら継続的に企画していきたい」と手応えを感じていた。
スガナミ楽器経堂店への問い合わせは、電話:03・3425・9151まで。