共産主義国家の中国だが、近年キリスト教徒の数が急増している。中でも東部の浙江省には多くのキリスト教徒がおり、そのコミュニティーの大きさから、同省温州市は「中国のエルサレム」とも呼ばれている。その浙江省で、地元のキリスト教徒が、撤去された十字架を再び教会の屋根に取り付け、中国当局に抗議の意を示している。
米オンライン新聞「クリスチャン・サイエンス・モニター」によると、2013年以降、中国当局が450以上の教会の十字架を撤去したことに対し、プロテスタント教会の団体が抵抗している。当局はこれまで、事前通知なく大きなクレーンと共に教会に現れ、多くの教会の十字架を撤去してきた。その理由は、表面的には宗教施設の新しい建築基準に違反したためとなっているが、多くの人は当局による反キリスト教キャンペーンだと考えている。
新しい建築基準では、十字架は教会の屋根にあってはならず、サイズを縮小し、建物と同じ色にして建物の側面に設置しなければならないとしている。これによって、十字架が見づらくなっている。
同省の麗水市や阜陽市近郊の16の教会では、当局が十字架を撤去しても、教会の長老たちが根気強く、多い時には1日に3度も十字架を付け直し、幾つかの教会では、木を切って十字にしただけの十字架が立っているところもある。
また温州市では、500万ドル(約6億円)の費用をかけて建築した教会が、竣工直前に当局によって完全に破壊されたと同紙は報じている。先月には、同省の当局が、全ての教会から十字架を撤去しなければならないと告知したという。
これに対し、この地域最大の教会は公開書簡で、この政策が「混乱と宗教間の対立を引き起こしかねない」と批判。また、キリスト教徒の中国人元ジャーナリストは、「教会は何度でも十字架を掲げ直しています」「教会は固く立ち、非常に勇気があります」と語っている。
中国政府公認のプロテスタント教会である「三自愛国教会」は、中国国内では合法で、中国政府に忠誠を誓っていると称しているが、それでもしばしば標的になることがある。中国最大のメガチャーチの一つで、同省の省都である杭州市にある「崇一堂」の指導者たちは、毎週1万人以上が訪問するというその公式ウェブサイトに抗議の書面を発表したが、1週間後にそのページは削除された。
この抗議文は、北京出身の人権派弁護士で、現在は米マサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード・ロースクールに在職している滕彪(トン・ビャオ)氏が記したもので、国家は憲法に従い、「伝統と全ての宗教に対する敬意をもって統治する」義務があると述べている。そして、教会の屋根にある「2千年間続く信仰と愛」のしるしである十字架を取り除こうとする試みは、この敬意の欠如を表しているとしている。
また、建物や構造物の基準は特定の地域のために制定されたものであり、その基準を超え、全ての十字架に対する制限であるように拡大解釈されていると論じている。
また、十字架を撤去することは、当局による「過干渉」を意味し、「撤去にあたっての混乱と宗教的対立を引き起こしかねない」と指摘。この新しい基準は全ての宗教建築物に対するものだが、プロテスタント教会とカトリック教会にのみ適用可能だと指摘している。
地元の牧師たちは、こうした一連の行為を、当局がキリスト教人口を大幅に減らすための前座のようなものだと捉えている。温州市内では教会の破壊だけではなく、当局員が教会へ潜入し、集っているメンバーとその家族を把握しようとしているという。
中国は、8500万人ともいわれる党員を抱える中国共産党により統治されているが、5千万人から1億人以上ともいわれるプロテスタント信者、そして約600万人といわれるカトリック信者がいる。このうち、約120万人のキリスト教徒が温州市にいるとされている。