『Critical Readings on Christianity in Japan』(全4巻)は、オランダに本社を置く人文・社会・自然科学の専門書出版社であるブリル(Brill)社が今年出版した専門書である。最近出版された英語による日本のキリスト教に関する研究書で、これだけ包括的で詳細な本は本書の他にないだろう。合計で1400ページを超えるその内容は、第1部から第10部まで、日本のキリスト教の歴史や政治的・社会的影響、ナショナリズムや国家との関係、神学思想や社会学的・人類学的研究、文学に至るまで、学際的で多岐にわたる。
著者の多くは外国人であり、日本ではあまり知られていない人たちも多い。ただ、新刊本とはいえ、その内容は日本語からの英訳も含めて1960年代末から近年までの他の出版物に出された論文を転載して集めたものがほとんどである。そもそも本書は最新の知見を集めたものではなく、これまでの研究をまとめたリーディングス(選集)であり、研究者や学生向けの本としては貴重な労作である。
ともすれば、日本語だけの世界に閉じこもりがちな日本のキリスト教は、たとえそれが国内では少数派であっても、国際的な視野に立った研究や海外への発信に値することを、この本は思い起こさせてくれる。
編者のマーク・R・マリンズ教授は、四国学院大学、明治学院大学、上智大学の教授を務め、現在はニュージーランドのオークランド大学で日本研究に取り組みながら、同大の日本研究センター所長を務めている宗教社会学者。『メイド・イン・ジャパンのキリスト教』(トランスビュー、2005年)などの著者としても知られている。本書でも、日本のキリスト教の文化的・社会的な次元にまで踏み込んで論じているのが興味深い。
本書に収められたマリンズ教授自身によるものを含めた合計57の論文は、同じくマリンズ教授の編集によって、2003年に一冊の本として出版された『Handbook of Christianity in Japan(日本のキリスト教ハンドブック)』をさらに詳しく深めたものであるといえよう。
マリンズ教授は、本紙のメール取材に応じ、「『Critical Readings』は、日本におけるキリスト教の諸側面をカバーしようとしていますが、論文の選択がなかなか難しい作業でした。翻訳の時間と予算はありませんでしたので、英語で書かれたもの(既に翻訳されたもの)から論文を選びました。国内外の研究成果の学際的論文集になりました」と説明。「今後、日本と世界のキリスト教の教育・研究に参考になれば、また若手研究者に役に立てば幸いです」と回答した。
本書は研究者や大学生・大学院生向けの専門書だが、日本のキリスト教に関する予備知識と英語に自信のある人で、海外や日本で英語を話す外国人に日本のキリスト教を伝えたい人にもお薦めの本である。
もっとも、本書の販売価格は全4巻で10万円を超えており、個人で気軽に買えるような本ではなく、むしろそれだけの予算がある大学図書館や大きな公共図書館向けの本といえよう。現在、国際日本文化研究センター図書館や東京大学総合図書館、南山大学名古屋図書館、西南学院大学図書館、立教大学池袋図書館などに所蔵されているが、英語で活動している大きな教会の図書室にもあってもよいかもしれない。