千葉市美術館で4日から、「ブラティスラヴァ絵本原画展-絵本をめぐる世界の旅-」が開かれている。
スロバキアの首都ブラティスラヴァでは、絵本の原画展が1967年から2年に一度開かれている。当時、世界は東西冷戦の真っ只中。米国を中心とする資本主義の西側諸国と、ソビエト連邦を中心とした社会主義の東側が争っていた。この国も、当時は「チェコスロバキア」という社会主義国家だった。しかし、絵本のアーティストたちは政治的な立場に左右されず交流し続けようと、この絵本原画展を始めた。
ユネスコと国際児童図書評議会(IBBY)の提唱で始められ、現在はスロバキア文科省が主催して行われている。すでに出版された絵本の原画を審査の対象として、各国の支部で審査、その後ブラティスラヴァで審査を行っている。本国のスロバキアでは展示だけではなく、ワークショップも開かれるなど、盛り上がりを見せているという。
今回、千葉市美術館で展示されているのは、2013年の秋に行われた展覧会で展示された作品。グランプリには、エヴェリーネ・ラオベとニーナ・ヴェーアレの作品『大洪水』が輝き、日本人アーティスト2人が準グランプリを受賞したことでも話題になった。
絵本の挿絵の役割は想像以上に大きい。新聞の写真のように文字で表現しきれないものを表現したり、読者に考えさせたり、物語の世界に引き込んだりと、さまざまな役割を果たす。「展示する作品には物語の流れが伝わるようなカットを選びました」と同美術館の学芸員は語る。この原画展の審査の対象に、絵本の本文や物語の内容は含まれないからだ。物語の内容は国によって受け止められ方が違う。そのため、この展覧会の審査の対象は絵のみに絞っているという。しかし、物語の世界に引き込むために描かれたものであるため、今回の展示では、ストーリーの流れが伝わるカットを選んだという。
長い伝統を誇るこの原画展。従来はベテランの作家の出品が目立ったが、2009年からは、前回のグランプリ受賞者も審査員として参加。また、本来の読者層の子どもの視点から審査する賞もある。
「絵本の挿絵は、文字の読めない子どもを物語の世界に引き込むためにメリハリをつけることも大切ですが、役目はそれだけではないのです」と同展の担当者は言う。
現在では、実際に絵本を購入する大人の視点も意識するのだろう。「絵本は子どもが最初に訪れる美術館。アーティストは子どもの視点はもちろん、実際に子どもたちに買い与える大人にも面白いと思わせる表現が要求されるでしょう。また、絵本はその国独自のものや地域性の強い『誰もが知る』物語を伝える役目も担ってきました」と先述の学芸員は話す。
また最近では、インターネットやテレビゲームの普及により、子どもたちの感性も国際化が進んでいるという。「今回もそうですが、斬新なデザインの若手の作家の受賞が目立ちます」(先述の学芸員)という。
絵本をめぐる世界の旅とタイトルを付けられた今回の展示。配列も、国別に作品を並べるなどこだわったそうだ。
グランプリ受賞作品の『大洪水』は、旧約聖書のノアのストーリーを描いた、いわば誰もが知る物語。本文は聖書のドイツ語訳を書いただけのもので、表現や造形の斬新さが他のコンペティションで高い評価を受けていた。今回は、そのイラストレーションがあらためて評価されての受賞だというが、この2人は絵本はこの作品が初めてだという。
「現代の絵本のアーティストは、創作絵本や現代の物語だけではなく、誰もが知っている古典を新しい表現で伝えることに非常にやりがいと情熱を持って張り切って取り組んでいます」(同)
絵本原画展は3月1日(日)まで。スロバキア本国で好評を博した子ども審査員賞に倣い、2月11日まで「ちば子ども審査員賞」の投票も行われている。一般800円、大学生560円、高校生以下無料。問い合わせは、同美術館(電話:043・221・2311)まで。