群馬県みどり市にある富弘美術館。星野富弘さん(68)の水彩詩画を展示しているこの美術館は、生命の尊さ、やさしさを伝え続け、今月初めに開館以来の総入館者数が650万人に達した。
星野さんは群馬県出身の詩人であり、画家としても活動している。元は中学校の体育教師だったが、1970年に体操部の指導中、宙返りの模範演技の失敗により頸髄損傷の重傷を負い、肩から下の機能が麻痺してしまった。9年間におよぶ入院生活の間にイエスの愛を知り、病室で洗礼を受け、口にくわえた筆で水彩画、ペン画を描き始めた。
その時のことを、「体が動かなくても良いんだ、今の苦しみは一時的な試練なんだ、逃げずに受け入れ乗り越えていけば良いんだと。私が私になった瞬間でした」と地元紙に語っている。いつしか作品に詩を添えるようになり、退院後、故郷に帰って創作活動を続行。水彩画、ペン画に詩を添えた作品と随筆を織り交ぜた『花の詩画集』をはじめとした数々の著作を出版した。91年、同県勢多郡東村(当時)の草木湖近くの使われなくなっていた福祉施設を改築して、村立の富弘美術館が開館した。
2002年には入館者400万人を達成。05年には新館としてオープンし、展示室はもちろん、ビデオルーム、図書コーナー、ショップ、カフェなど、見て、触って、感じて、楽しめる部屋を用意。床もフラットで、もちろん身障者用トイレも完備している。
星野さんの作品は中学校の国語や道徳の教科書にも掲載され、多くの人に感動を与え、06年には群馬県名誉県民の称号を授与されている。
入館者650万人達成を受けて、星野さんは「大勢の方が富弘美術館に来てくさったのは、美術館のきれいな景色に加えて職員とボランティアの方々が心を込めて(来館者を)迎えてくれたからです。ありがたいと思います」とコメント。
聖生(せいりゅう)清重館長は、「小さな山間の美術館として誕生して22年と6カ月。650万人もの方に見ていただけましたこと、大事な詩画作品を無償で貸与してくださっている星野富弘さん、全国のファンの皆様、行政、地域住民、富弘美術館を囲む会、ボランティアなど美術館に関わる大勢の方々の支えによるものです。心から感謝します。650万人達成は、ひとつのゴールですが、同時に新たな時代に向けてのスタートでもあります。今後も、みどり市の大事な資産である富弘美術館が永続的に元気で存在できるよう、スタッフ一同、全力をあげる所存です」と語った。
650万人目となった川崎市立宮前小学校の6年生たちは、予想外だとしながらも「口で描いた富弘さんの絵が素晴らしい」などとコメント。宮前小学校には、650万人目の認定証と花束、記念品として星野さんの直筆サイン入りの詩画集とカレンダーが贈られた。