米スミソニアン・チャンネルが、「イエスは彼らに言った、『私の妻は・・・』」と書かれた33語のパピルス紙片の信憑性について番組を放送した。
『イエスの妻による福音書』をテーマに開始した新しいドキュメンタリーシリーズでは、このパピルス紙片は調査によって確かに古代の書簡であることは確認されたものの、その内容だけで、実際にキリストが結婚していたという証明にはならないと、視聴者に繰り返し念を押した。しかし、それでもこの1時間のテレビ番組では、ほのめかしの多いドラマを入れて、マグダラのマリアにとってイエスが救世主以上の存在であった可能性を検討している。イエスとマグダラのマリアがカップルであったという憶測は今に始まったことではないが、スミソニアン・チャンネルで放送中の『イエスの妻による福音書』に関するドキュメンタリーでは、このパピルス紙片に書かれた文脈不明の言葉がこの議論にとってどれくらい深刻であるか、重要な問いを投げかけている。
『イエスの妻による福音書』は、ハーバード神学大学院のカレン・キング教授が2010年に初めて取り上げた。キング教授は、コプト語で書かれた古代のあるパピルス紙片を所有していると言う男性からメールを受取ったという。この紙片は、匿名希望の民間のあるコレクターが所有しており、縦3.8センチ、横7.6センチ程の大きさで、一躍有名になった「イエスは彼らに言った、『私の妻は・・・』」という文を含め、コプト語で33語の言葉が書かれている。調査によって、このパピルス紙片は6世紀から9世紀のものと強い確証が得られたが、書かれた言葉自体はおそらく2世紀から4世紀頃にまで遡ると考えられている。
現在22億人(世界人口の32パーセント)が信仰するキリスト教では、伝統的に1世紀のガリラヤ出身のユダヤ人でありながら神が受肉した存在であるイエスは独身であったとされてきた。聖書にはイエスが結婚していた、あるいは配偶者がいたという記述はない。その一方、スミソニアン・チャンネルの番組で指摘しているように、正典ではイエスが独身であったとも明記していない。
「もし『イエスの妻による福音書』が本物であるなら、それは何を意味するのか」と、この番組のナレーターは問いかけ、すぐさま警告する。「当初からキング教授とその同僚たちは、だからといってイエスに妻がいたという歴史的な証拠にはならないと強く強調した」
しかし、番組ではさらに続けて、この33語の文書が何を意味しているのかの憶測に入る。ドラマ仕立てのシーンで、イエスとマグダラのマリア役の俳優たちに意味ありげな視線を交わさせる。
「イエスとセックスについての話題は何でも儲かるし、興奮を呼ぶんです」と、ベネディクト派修道士兼聖書学教授のヘンリー・ワンズボロ神父はこの1時間番組のプレビューで語った。
「私たちはイエスを神の子と考えています」と、プリンストン大学宗教学部のアン・マリー・ルイエンダイク準教授は言う。「ですから、イエスが性的な関係を持っていたかもしれないという事実は、キリスト教神学の多くの部分を見直すことにつながります」
ルイエンダイク準教授は初期キリスト教の専門家で、パピルス研究者でもあり、キング教授がこの文書を分析するのを援助した。
「これが意味するところはもっと深いかもしれません」と番組のナレーターは語り、その一方ドラマ化したシーンでは、イエス役の俳優がサンダルを脱ぎ、衣服を脱ぎ、ろうそくを吹き消して、いかにもベッドに入る準備をする――「誰と?」というのは視聴者の想像に任せる。(続く:現代のクリスチャンにどのような意味を持つのか)
■『イエスの妻による福音書』ドキュメンタリー番組:(1)(2)