日米の神学者たちが今後100年先の日本のキリスト教会のあり方を見据えつつ、震災後の教会が今なすべき働きについて考える第2回「東日本大震災国際神学シンポジウム」が27日、東京都千代田区のお茶の水クリスチャン・センターで開かれた。東日本震災救援キリスト者連絡会(DRCnet)、聖学院大学総合研究所、東京基督教大学が主催し、教派を超えて教職信徒ら約170人が参加した。フラー神学大学院学長のリチャード・J・マオ(Richard J. Mouw)氏の主題講演に続いてパネル・ディスカッションが行われ、4人のパネリストが大震災とその後の対応についてそれぞれの見解を述べた。
伊藤悟・青山学院大学教授は、キリスト教大学がボランティア活動を実施する上で直面する3つの課題を挙げた。第一は、「破壊し尽くされた被災地の現状と命の問題をどのように伝えるか」。伊藤氏は、天皇制や沖縄の米軍基地問題を例に挙げ、「(日本は)とりあえずなんとかその場をやり過ごして、お茶を濁して歴史をやりくりしてきた状況が散点する。あらゆることをピリオドではなくカンマで行おうとする」とし、日本人の死生観についても同様に「ピリオドを打てないから死の状態を引きずる」と説明した。「(日本人の死生観の問題は)日本で復活の福音を伝えることが果たして可能かどうかということを問うもの」でもあると指摘し、「キリスト教学校が被災地にボランティア派遣を行うときにも重要なカギ」と話した。
第二は、「教育プログラムとしての被災地支援は成立するか」。伊藤氏は、ボランティアである限りは支援側の自己目的が排除されることを前提とした上で、キリスト教学校が学生のボランティア活動の教育的な意義に重きを置くあまり、「純粋に被災地中心でなく、目の前にいる学生や生徒たちの成長を期待することがどうしても起こる」と指摘した。この課題の解決策の一つとして伊藤氏は、教育カリキュラムとしての「キリスト教サービス・ラーニング」の実施を提唱した。学生が人に仕えることによって地域の活性化に貢献するとともに、学生が支援の必要な人々の目線に立つことで、自分に不足する学びやスキルに気づき、学習を重ねていくという内容だ。「単なる体験学習や一過性の奉仕活動とは異なり、学校と社会のインタラクティブな変化を引き起こす教育プログラム」だと説明した。
第三は、「自立支援はキリスト教的か」。伊藤氏は、「主イエスのたとえ話や奇跡物語などについて、自立思考の聖書解釈も存在する。しかし、自立を最終目標にしてしまってよいのか」と問いかけ、「自立することを目指すとなると、自立的な人はよくて、なかなか自立できない人は目標に達成できないだめな人になってしまう。そうではないのでは」と指摘した。一方で共生についても、「共に生きることをゴールとした場合、後は自分でどうぞ、という自立支援のかたちは果たしてどうなのか」と述べ、「自立と共生のさじ加減を支援者側はどのように見極めるとよいのか。私たちの中の支援や仕えることの概念が問われている」と話した。その答えの一つとして伊藤氏は、「自立や共生かの二者択一ではなく、自立と共生の間に置く瞬間的なコミュニティ」を挙げ、「自立でも共生でもない、あるいはゆるやかな自立とゆるやかな共生が許される場。その一つが教会ではないか」と語った。
岡村直樹・東京基督教大学教授は、実際に東日本大震災の被災地でボランティア活動に参加したキリスト教大学の学生を対象にインタビューを実施し、学生たちの内面的変化を追った。すると、学生たちの心の中に共通して、多くのキリスト教系大学の建学の精神や教育の理念として挙げられている「謙遜な姿勢」「他者理解」「隣人愛」「社会奉仕」といった教育項目に沿った変化が見られたという。
岡村氏は、「ボランティア活動は一方向の取り組みではなく双方向の取り組み」と語り、「教会がクリスチャンの若者の信仰成長につながるのだという認識を持ちつつ、ボランティア活動を積極的に推進すべき」と提言した。また、「(ボランティア活動は)自らの宗教観やキリスト教の信仰について深く考える機会を提供するものであり、クリスチャンでない学生がボランティアに行ったとしても、キリスト教精神の教育につながる」と述べ、ボランティア活動を通じた教育の重要性を強調した。
カトリック教会の援助活動を担当するカリタスジャパン担当司教の幸田和生・カトリック東京教区補佐司教は、「私たちキリスト教会の究極的な使命は、家も家族も故郷も仕事もすべてを奪われ、失意のどん底にいる人に希望のメッセージを伝えること」と語り、「(希望とは)2000年前にイエスがガリラヤの人々に伝えた希望であり福音。そのメッセージを伝えるのでなければ、私たちの支援活動はもしかしたらまったく意味のないものになってしまう」と述べた。幸田氏は、悲惨な現実の中にあっても悲しみや喜びを共に分かち合う必要性を強調し、「被災者に寄り添い、被災者の話を聞き、仮設の集会所でいろんな話をしながら、被災者と一緒に希望を見つけていきたい」と語った。
藤掛明・聖学院大学准教授は、臨床心理士の立場から、復興のプロセスの中で重要な3つの項目を挙げた。一つ目は、被災者が現実と理想、楽観と悲観、短期の視点と長期の視点などの二律背反の世界を受け止め、どちらも捨てないこと。2つ目は、自分の体験を解釈すること。藤掛氏は、「物語をつくること」と表現し、キリスト者が神の恵みを人に伝える「証し」もこれに該当すると説明した。また注意点として、解釈を急がないことと、一度解釈した内容に縛られないことを挙げた。3つ目は、語り合うこと。藤掛氏は、語り合うことの効果について、「最大の決め手」とその重要性を強調し、「(被災者が)癒やされて、新しいものが見えてくるということが起きていった」と被災地での経験を語った。
藤掛氏は、この3項目について「教会共同体が一番得意とすること」と述べ、「これからの復興のプロセスの中で、キリスト教会の共同体がこれらの事柄を深めて、前進させていくことができるのではないか」と話した。
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