「映画と音楽の夕べ」は感動の渦
1978年、山谷の人々への伝道のために「映画と音楽の夕べ」を開催しました。映画は「塩狩峠」(原作・三浦綾子)、音楽は香港、台湾から72名編成の青少年合唱団を招きました。近くの小学校講堂を借りることもできました。大きなポスターを何十枚も電柱に貼り、2千枚の招待状を配りました。教会としては初めての一大イベントです。
ところが開催前日に、浅草警察署から呼び出しを受けたので出向いたところ、署長はこの催しを中止せよ、と言うのです。思わず、どきっとしました。
「香港、台湾から合唱団を招くことが、万一、対中国との関係で国際問題に発展したら、私のクビが飛ぶんですよ」と言います。
―ああ、主よ。どうしましょう―
どんな問題でも、「主よ!」と呼び求めればいい。神様は、すぐに答えて下さるのだから。神様が、とっさに私の口に与えて下さった言葉はこうでした。
「これは、私が主催しているのではありません。天地を創造された唯一のまことの神様がなさっているんです」
自分でも意外だったし、署長はもっと驚いたらしいです。
「えー。その、何ですか。あなたのキリスト様と、天地創造の神とは同じですか?」
(しめたっ、待ってました)とばかりに、私は聖書の冒頭の「創世記」から終わりの「ヨハネの黙示録」まで、神様の人類に対するご計画について、40分間機関銃のように講義し続けました。署長は、口を挟む余地などありません。
「山谷の人たちが、不況を迎えて餓死、凍死していくのを、あなた方は見たことがありますか。『百聞は一見にしかず』行って、見て下さい。彼らには、食物やお金をあげても、食べてしまったり、使い終わってしまったらそれっきりですよ。彼らに必要なのは、何よりも愛なんです。皆、何よりも愛に飢えているんです。
『塩狩峠』の映画を、ご覧になって下さい。この主人公は、汽車が暴走し始めた時、このままでは転覆してしまうと知って、自分がブレーキ代わりに汽車の前に身を投げ出して、乗客全員の命を救ったんです。
これが、まさしくキリストの愛の見本なんです。キリストは、この愛を体現するために、神の国から人間となって地上に降誕された。これがクリスマスです。そして全人類のため、あなた方のために十字架にかかって死なれたんです。キリストのその愛は、ご自分の命を捨てて、全人類を救う神の愛でした。この映画を、飢えと孤独と病気の中で苦しんでいる山谷の人々に見せてあげて、この真実の愛を教えてあげなければならないんです」
話し終える頃には、涙が出てきて止まらなくなってしまいました。気がつくと、署長以下、綺羅星の如く並んでおられた警察のお偉方も皆涙ぐんでいます。署長は最後にこう言いました。
「分かりました。森本先生の雄弁には負けました。許可しましょう。やって下さい」
「ハレルヤ!そうこなくっちゃ。世界でも有名な日本の警察じゃないですか。心配なら、私服の刑事30人ばかりよこして警備して下さい」
「はい、分かりました。そうしましょう」
全く、どちらが署長か分かりません。これぞ、まさしく主客転倒です。それは、全世界、全宇宙の創造主、王の王として君臨されているキリストが私とともにおられ、先頭に立ち、背後で支えて下さっているからです。
「わが勝利の右の手をもって、あなたをささえる」(イザヤ41・10)と仰っているのだから、私たちに敵する者はありません。この世の権威も、その前には無力なのです。
いよいよ開催当日になりました。待って、待って、待ち望み、祈りに祈ってきた日がやってきたのです。会場の小学校に行くと、昨日会った警察署の警備課長が向こうからやってきました。私は、昨日はよくもあれだけのことをしゃべりまくったものだ、と思い返すと、我ながら恥ずかしくなってうつむいてしまいました。
「あーどうも。昨日は大変お騒がせしてすみませんでした」
「いやいや、立派立派。うちの署長、感嘆してました」
「まぁー、お恥ずかしい次第でございます」
私、これでも女性の中の女性なのですから。その晩、青少年合唱団の賛美演奏に、山谷の人々はすっかり心を溶かされ、感激と感謝に満たされました。引き続き「塩狩峠」を見終えた時、一同泣いて、会場全体が涙の渦に包み込まれました。さながら、聖霊の嵐に心揺すぶられたような有り様でした。終わった途端、先ほどの警備課長が開口一番こう言いました。
「森本先生、こんなのもう一回やったらどうですか」
この日、3百数十名が入場し、「私はイエス様を信じます」とか「俺もクリスチャンになりたい」という人々が150名も与えられました。こうして、大勝利のうちに催しは終わったのです(続きは次週掲載予定)
。
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(本文は森本春子牧師の許可を得、「愛の絶叫(一粒社)」から転載しています。)
森本春子(もりもと・はるこ)牧師の年譜
1929年 熊本県に生まれる。
1934年 福岡で再婚していた前父の養女となる。この頃、初めて教会学校に通い出す。
1944年 福岡高等簿記専門学校卒業。義母の故郷・釜山(韓国)に疎開。
1947年 1人暮らしを始め、行商生活に。
1947年 王継曽と結婚。ソウルに住み、三男二女の母となる。
1953年 朝鮮戦争終息後、孤児たちに炊出しを続け、17人を育てる。
1968年 ソウルに夫を残し、五児を連れて日本に帰る。
1969年 脳卒中で倒れた夫を日本に連れ帰る。夫を介護しながら日本聖書神学校入学。
1972年 同校卒業、善隣キリスト教会伝道師となる。山谷(東京都台東区)で、独立自給伝道を開始する。
1974年 夫の王継曽召天。
1977年 徳野次夫と再婚。広島平和教会と付属神学校と、山谷の教会を兼牧指導。
1978年 山谷に、聖川基督福音教会を献堂。
1979年 この頃から、カナダ、アメリカ、ドイツ、韓国、台湾、中国、ノルウェーなどに宣教。
1980年 北千住(東京都足立区)に、聖愛基督福音教会を献堂。
1992年 NHK総合テレビで山谷伝道を放映。「ロサンゼルス・タイムズ」「ノルウェー・タイムズ」等で報道され、欧米ほか150カ国でテレビ放映。
1994年 「シチズン・オブ・ザ・イヤー賞」受賞。
1998年 「よみがえりの祈祷館」献堂。
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