米シンクタンク「ピュー研究所」がこのほど発表した包括的な宗教調査(英語)によると、キリスト教徒は190カ国中160カ国でハラスメント(嫌がらせ)を経験していることが分かった。また、宗教に対する政府の規制が報告された国は、2007年に調査を開始して以来、過去最高の183カ国に上ったことも明らかになった。
調査は、米ピュー慈善財団と米ジョン・テンプルトン財団から資金提供を受けるプロジェクトの一環として、21年に行われた。その結果、政府の行動と社会的な敵対行為の両方が、宗教グループに対するハラスメントの要因となっていることが示された。
世界最大の宗教グループであるキリスト教徒は、侮蔑的な発言から身体的な暴力に至るまで、さまざまな形態のハラスメントに直面した。21年にキリスト教徒に対するハラスメントが報告されたのは160カ国で、20年の155カ国より5カ国増加した。
世界で2番目に大きな宗教グループであるイスラム教徒は21年、141カ国でハラスメントに直面した。一方、これは20年の145カ国からはやや減少した。
ピュー研究所によると、キリスト教徒とイスラム教徒は、世界で最も大きな宗教グループであることから、調査開始以来、一般的に他のどの宗教グループよりも多くの国でハラスメントを受けているという。また、この数字はハラスメントの深刻さを示すものではなく、必ずしもこれらの宗教グループが、世界で「最も迫害されている」ことを示すわけではないとしている。
ユダヤ教徒は21年に91カ国でハラスメントを受けており、20年の94カ国からはわずかに減少した。ユダヤ教徒は世界人口のわずか0・2%を占めるにすぎないが、全ての宗教グループの中で3番目に多くハラスメントを受けている結果になった。
物的損害、暴行、勾留、強制移動、殺害などの物理的ハラスメントは、137カ国で発生したとされ、そのうち100カ国では政府が主な加害者だった。
物的損害は物理的ハラスメントの中で最も多く、105カ国で発生した。欧州は、宗教に関連した物的損害を報告した国の割合が最も高い地域だった。フランスでは、21のモスクが過激なイデオロギーを広めたとして、当局により閉鎖され、ポーランドではカトリックとユダヤ教の施設に対する複数の襲撃が報告された。
宗教的信条を理由とする暴行は、91カ国で報告された。中東・北アフリカで特に多く、これらの地域に該当する20カ国中15カ国(75%)で暴行の報告があった。イエメンでは、イスラム教ザイド派の反政府武装集団「フーシ派」が、イスラム教スンニ派のモスクにミサイル攻撃を行い数十人が死傷するなど、イスラム教徒間による暴行も報告されている。
宗教的信条に関連した勾留は、77カ国で報告された。これも、中東・北アフリカで特に多く、20カ国中15カ国で報告があった。アジア・太平洋でも50カ国中26カ国(52%)で報告されており、スリランカでは、19年に起きたイースター爆弾テロ事件との関連が疑われ、311人もの人が正式に起訴されることなく収監され続けた。
調査によると、宗教的信念や実践を規制する法律や政策、国家公務員による行動などを含めた、宗教に対する政府の規制は、21年に世界的なピークを迎えた。宗教に対する政府の規制を示す指数(最大10)の世界的な中央値は、20年は2・8だったが、21年は3・0にまで上昇した。調査を開始した07年は1・8で、それに比べると1・2も増えたことになる。
これに対し、宗教に対する社会的敵対行為の世界的な中央値は、20年の1・8から21年は1・6とわずかに減少した。
全体の28%を占める55カ国が、21年に「高い」または「非常に高い」レベルの政府による宗教に対する規制を経験した。これは、これまでで最も多かった57カ国(29%、12年、19年、20年)よりもわずかに少ないが、宗教に対する政府の規制を示す指数が上昇した国が全体として多かったため、全ての国を含めた世界的な中央値は上昇し、過去最高となる結果となった。
調査はまた、宗教に関する政府の行動の二重性にも光を当てている。161カ国の政府は、宗教グループに対し規制を課すなどのハラスメントを行う一方で、宗教教育への資金援助や宗教建築物の維持管理の支援など、便宜も図っていた。