1923(大正12)年9月1日に関東大震災が発生してから、1日で100年となった。地震は午前11時58分に発生し、マグニチュード(M)7・9、最大震度7と推定される大規模なものだった。内閣府の推計では、死者・行方不明者は10万5385人に上り、死者の約9割は地震によって発生した大規模火災によるものだったとされる。
一方、この地震では、混乱の中で「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といったデマや流言が広がり、多くの朝鮮人や中国人が虐殺される事件も発生した。このことを覚え、日本カトリック司教協議会社会司教委員会(委員長:勝谷太治司教)は8月31日、関東大震災発生時の朝鮮人虐殺に関する声明を発表した。
声明は、日本政府が虐殺の事実認定を避けようとする中、市民や研究者の努力により、虐殺の実態を示す記録が蓄積されていることを指摘。それによれば、虐殺は日本政府や軍隊、警察などによる虚偽情報に誘発され、自警団などが関わったことで発生。虐殺の隠蔽(いんぺい)には日本政府も関与していたことが明らかになっているという。
日本は、地震発生13年前の1910年に韓国を併合しており、声明は「植民地化された朝鮮半島において何重にも理不尽な仕打ちを受けた果てに日本にやってきた人々が、突然、狂気に駆られた群衆に取り囲まれ、無残に命を奪われたことの無念はいかほどだったことでしょう」と述べ、犠牲者へ思いを寄せている。
その上で、現在は多くの国で、国家による過去の重大な人権侵害の歴史を認め、謝罪し、記憶にとどめる動きが強まっていると強調。「不当な歴史的事実とその被害者に向き合うことは、人間の尊厳、人権に深く関わる課題です」と訴えている。カトリック教会も、先住民の多くの子どもたちが犠牲になったカナダの同化政策に関与していたとして、ローマ教皇フランシスコが昨年7月に謝罪しているが、そのことにも言及した。
地震発生4年前の1919年には、朝鮮半島で日本からの独立を求める「三・一独立運動」が起きており、当時の日本人の間では、朝鮮人を日本の植民地支配に従わない「不逞(ふてい)鮮人」と蔑視する風潮もあったとされる。声明は、朝鮮人虐殺はこうした歴史的文脈の中で引き起こされた事件だと指摘。この頃に醸成された朝鮮人に対する差別感情や排外的感情が、現在の日本社会にも根深く残っており、在日外国人に対するヘイトスピーチを助長しているとしている。
日本政府に対しては、朝鮮人虐殺の歴史に真摯(しんし)に向き合うことを強く要望。真相究明や犠牲者遺族への謝罪と補償、資料の開示と恒久的な保存、歴史教育の拡充を実施することが急務だとした。
また、歴代の東京都知事が追悼文を出してきた関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典に対し、就任翌年の2017年から追悼文を出していない小池百合子東京都知事に対しては、追悼文の送付再開と追悼式典に対する支援を求めた。
一般のカトリック信徒や日本の市民に向けては、「関東大震災から100年目の今、改めて過去の歴史を見つめなおす時が来ています」とし、次のように呼びかけた。
「なぜあのような虐殺が起こり、そして今日なお、外国人差別はなくならないのでしょうか。私たちはいつも日本にいる外国籍の方々の『よき隣人』だったと言えるでしょうか。過ちがあるなら、その気づきと回心の恵み、そして導きを、主なる神に切実に祈り求めたいと思います。差別や排除のない、誰も取り残すことのない社会を築くために」