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ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(17)引き裂かれた心

2022年10月6日10時29分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

1914年。第1次世界大戦が勃発した。これは実に、悪夢をドイツにもたらしたのであった。政府の法令により徴兵制度が敷かれ、若者は次々と戦場に出て行った。

ハンスは定期的な薬の投与で心不全の症状がかなり落ち着いてきたが、徴兵検査では不合格になった。それで彼は、野戦病院での勤務を義務付けられて、出発して行った。

やがて戦争が拡大し、政府の徴兵だけでは間に合わなくなった。町角には「義勇兵募集」の張り紙がされ、政府は過激な言葉をもって市民の愛国心をあおり立てた。

そんなある日のこと。ペーターがいつになく思い詰めた表情で両親に話があると言って入ってきた。「父さん、母さん、ぼくはもう18歳なので義勇兵として出兵したいんです」。夫妻は耳を疑った。彼は両親に内緒で市役所に届けを出しており、軍の第3駐屯地に配属されたのだという。

いくら言葉を尽くして引き止めても、彼の意志は変わらなかった。カールは無言のまま部屋を出て行き、ケーテは思わず泣き崩れた。母として当然の感情だった。その時、ペーターは腕を伸ばすと母の体を抱きかかえた。そして、妙に大人びた口調でその耳にささやいた。

「大丈夫。お母さん、落ち着いていらっしゃい。今にきっと、全てが良くなりますよ」。ケーテはこの時、最愛の息子が既に自分の手の届かない所に行ってしまったことを感じた。その夜3人はいろいろと話し合い、ついに両親は彼の意志を尊重することにして、ペーターを送ることに決めた。

その夜は3人そろってケーニヒスベルク中央通りのホテルで最後の食事をとった。ペーターの好きな幾つかの料理をとり、ワインで乾杯したが、ケーテにはそのぶどう酒が血の色に見えた。

「大丈夫。帰ってきますよ。死神なんか吹き飛ばしてやるから」。ペーターは、あえて冗談を言ってみせるのだった。その夜はそのままホテルに泊まり、ペーターを真ん中にして寝た。

翌朝、5時きっかりにペーターは起きて支度を整えた。駐屯地はそこから歩いてすぐの場所だったので、彼は一人で出かけることになった。彼は両親にあいさつすると、なぜかケーテの首を抱き、その耳にささやいた。

「お母さん、出発するとき、皆と一緒にこのホテルの前を通るから、軍歌が聞こえてきたら窓を開けて手を振ってください。きっとだよ!」

「分かったわ」。ケーテは涙をこらえてうなずいた。すると、ペーターはくるりと後ろを向き、廊下を駆け抜け、一度も後ろを振り向かずに正面の石段を駆け降りて行った。それから2時間後、遠くから軍歌が聞こえてきた。近くの家々の窓が開いて、人々が身を乗り出して叫んだ。「行ってらっしゃい! 元気でね!」

やがて軍歌は高らかに響き渡り、次第に大きくなっていった。カールはドアを開けると外に走り出て行った。ケーテは窓に駆け寄り、両手を窓枠にかけたが、どうしても開けることができなかった。ホテルのすぐ下で軍歌は一段と大きくなり、やがて遠のいていった。彼女はベッドに駆け寄ると倒れ伏し、泣きに泣いたのだった。

1914年。コルヴィッツ夫妻は軍部から、一通の手紙を受け取った。それは、ペーターがフランス前線で戦死したとの知らせだった。この日、ガブリエル・ロイターという女性が「ターク誌」に、婦人の使命は最も大切なものを国家にささげることだという一文を載せているのが目に入った。

ケーテはすぐにペンを取り、反論を書いてから机に突っ伏した。その耳に、あのペーターの声が聞こえたように思った。「大丈夫。お母さん、落ち着いていらっしゃい。今にきっと、全てが良くなりますよ」

彼女はノロノロと立ち上がると、『待つ女』という版画の制作に取りかかった。彼女にとって全ての時間が止まっていた。その後は1年に1作がやっと――という状態で、1915年に『孤独の人』、1916年に『子どもを抱く女』を制作したのみであった。

1918年。ドイツは戦争に敗れて全てを失った。リヒアルト・ディーメルは「フォアヴェルツ紙」に「全ての人よ、銃を取れ!」という一文を載せた。ケーテはその時、ドイツの、いや世界中の全ての母親の代弁者として自分が立てられているのを感じた。彼女は母の心をもってこの一文に対する反論を載せたのだった。

翌年1919年。彼女をさらに打ちのめす事件が起きた。リープクネヒトが同志ローザ・ルクセンブルクと共に虐殺されたのである。彼女は深い哀悼を込めて『リープクネヒトを悼む人々』を制作した。

*

<あとがき>

戦争が起きたとき、必ず犠牲になるのは、一般市民です。それは多くの家庭を破壊し、肩を寄せ合うようにして生活している家族をバラバラに引き離し、友情も、信頼している者同士の絆も断ち切ってしまうのです。

ケーテのもとにも悲劇がやってきました。愛する次男ペーターが、義勇兵として参戦することになったのです。悲しいことに、この純粋な若者は、国のために自分の命をささげたいという思いから、自発的に志願したのでした。

コルヴィッツ夫妻は、愛する息子を見送るために、市内のホテルで一夜を過ごします。彼らは、胸も張り裂けるような思いだったことでしょう。これは子どもを戦場に送らねばならない世界中の親たちが味わう、共通した嘆きと絶望であります。

祈りもむなしく、ペーターは戦死します。そして、ケーテの周囲からも愛する人たちが次々と取り去られていきました。ケーテの一番の理解者であったカール・リープクネヒトも同志のローザ・ルクセンブルクと共に逮捕され、虐殺されたのでした。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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