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ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(13)連作版画『織匠』

2022年8月10日13時29分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

1896年12月末、ケーテがコツコツと制作した連作版画『織匠』が完成した。ゲルハルト・ハウプトマンの戯曲からヒントを得たこの作品は、<窮乏><死><協議><織工たちの行進><殺到><終幕>という6場面によって構成されている。これは人間の尊厳を奪い取られ、家族もろとも破滅する織工の過酷な運命に託した自由への叫びであった。

絵が完成したとき、ケーテは真っ先に両親に見せたくてケーニヒスベルクに帰った。カール・シュミットは驚くほど老け込んでおり、腰痛と胃痛に悩まされていた。母もまた以前より痩せて、すでに髪は真っ白になり、ぜんそくのためにひっきりなしにせきをしていた。2人の話では、「自由宗教派」の教会に対する圧迫が以前にも増して厳しくなっており、しばしば政府の警察官が様子を見にやってくるということだった。

聖日礼拝にやってくる信徒の数はめっきり減り、それ以外の聖書研究や訪問といった教会の働きはすべて禁止されたのだという。2人はケーテの訪問をことのほか喜び、彼女が版画家としての道を歩み始めたことを祝福してくれるのだった。

「おまえはおじいさんがよく言っていた最も小さな兄弟に奉仕するために芸術家となったのだね。それが分かってうれしいよ。どうか神様の助けを信じて恐れることなくおまえの道を行きなさい」

カール・シュミットは言った。思えばこれが親子の間に交わされた最後の会話となった。――というのは、それから間もなく彼は死去するからである。

年が明けて1897年。ケーテは『織匠』を美術展に出す決心をした。ミュンヘンのヘルテリヒ美術学校の時の友人アンナ・ブレーンがレエアタア駅近くの画廊を買い取り、その美術展の主催者となっていたので、相談するとケーテの作品を展示してくれることになった。

その日、会場には多くの人が詰めかけていた。ヘルテリヒ美術学校時代の「コンポニール・クラブ」の仲間たちも駆けつけて励ましてくれた。また何よりうれしかったのは、あの劇作家ゲルハルト・ハウプトマン自身も姿を見せ、ねぎらいの言葉をかけてくれたことだった。

新聞でこの美術展の成功が報道されると、ベルリンやミュンヘンなどの町から近隣の都市へとうわさが広がっていった。「フォアヴェルツ紙」の文化面には取材記事と記者の所感が載せられていた。

「陰惨なテーマ、そして目を背けたくなるような場面を描写しながらも、ケーテ・コルヴィッツの絵は見る者に希望を投げかけてくる。なぜなら、彼女の作品のテーマは自由と解放を求める祈りそのものだからである」

この美術展の主催者たちも『織匠』を高く評価した。審査委員会は、この作品に金メダルを授与することを検討した。特に委員の一人である美術評論家ゲオルク・メンツェルは、『織匠』に魅せられ、メダル授与を熱心に推奨したのだった。

ところが、思わぬ支障が生じた。皇帝ウィルヘルム2世は新人画家の誕生に興味を示したものの、労働者である織工たちの苦しみと解放を求める姿に非常な不快感を示し、こう言ったのである。「こんな薄汚い、下品な作品にどうして賞などやる必要があるのかね」

こうした事情から、ケーテ・コルヴィッツへのメダル授与は取り消されることになった。しかしながら、新聞を見た一般大衆は新しい時代がやってきたことを予感した。重圧にあえいでいた下層階級の人々は、自分たちの代弁者がいることを感じて希望を持ったのである。

こんな時、ドレスデンの「エッチングおよびデッサン商会」の支配人マックス・レエアスがこの作品を買い取り、小さなメダルをこの作品に授与したのだった。

授与式を終えて診療所に戻ってきたケーテを迎えたのは、家族の歓待だった。ハンスとゲオルクに腰を押されて台所に行くと、テーブルの上には「お母さん、おめでとう」と書かれたカードを添えたケーキが飾られていた。夫カールがよちよち歩きを始めたペーターの手を取って入ってくると、ケーテを囲んでパーティーが始まった。

「お母さんの絵は世界一!」ゲオルクが口の周りをクリームだらけにして、ジュースを入れたグラスを高く上げると、「世界一!」とハンスも叫んでグラスを合わせた。

「おまえたち、乾杯が一人前にできたら、もう大人の仲間入りだな」。カールも妻とワイングラスを打ち合わせて笑った。ケーテは高く上げたグラスが次第に涙で曇っていくのを感じた。失敗しても、成功しても、いつも温かく自分を包んでくれるのは、家族の愛であった。

*

<あとがき>

1896年、血のにじむような努力の末、ケーテは連作版画『織匠』を完成させました。ミュンヘンの美術学校での友人アンナ・ブレーンがレエアタア駅近くの美術館の所有者となっていたため、相談すると、彼女は快く作品を展示してくれたのです。会場には多くの人が詰めかけ、あの劇作家ゲルハルト・ハウプトマンも駆けつけて、ケーテに激励の言葉を贈ってくれました。「フォアヴェルツ紙」も『織匠』を高く評価し、審査委員会は彼女に金メダルを授与することを決定しました。

ところが皇帝ウィルヘルム2世はこの作品に対してことのほか嫌悪感を示し、「こんな薄汚い、下品な作品に金メダルなどやれるか」と言ったことから、彼女へのメダル授与は取り下げられてしまいました。この時、ドレスデンのエッチング職人マックス・レエアスは彼女の作品を買い取り、小さなメダルを贈ってくれたのです。家に帰ったケーテを待ち受けていたのは家族の笑顔と、温かな激励の言葉でした。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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