キリスト教徒の受賞者も多い「庭野平和賞」の主催団体である庭野平和財団は、「庭野平和賞奨励賞」を新設し、16日に京都市内で開いた記者会見で第1回受賞者を発表した。受賞したのは、スリランカのカトリック人権活動家であるルキ・フェルナンド氏ら、アジア各国で活動する男女3人。受賞者には賞状の他、副賞として賞金200万円が贈られる。
立正佼成会が設立母体の同財団は、1983年に庭野平和賞を創設。宗教協力を通じて世界平和の推進に顕著な功績を上げた個人や団体を、約40年にわたって表彰してきた。新設された庭野平和賞奨励賞は、宗教的精神を基盤とした平和活動や研究を通して、地域に根ざしつつ、身近で具体的な課題に取り組み、人々の幸福と平和構築のための先駆的で萌芽的、実験的な活動に功績を上げた個人や団体を表彰し、さらなる発展を奨励するもの。
受賞者の1人であるフェルナンド氏は、アジアで最も長い内戦の一つといわれたスリランカ内戦(1983~2009年)の中、カトリック系の「国際青年キリスト教学生運動」(IYCS)のアジアコーディネーターや、同じくカトリック系の人道団体「カリタススリランカ」の平和部門コーディネーターなどとして活動。民族間(シンハラ人とタミル人)、宗教間(仏教徒とイスラム教徒)の分断と対立がある現場で、民族的少数派のタミル人や、宗教的少数派のイスラム教徒に寄り添った活動を展開してきた。自身は、民族的には多数派のシンハラ人、宗教的には少数派のカトリックという立場にあり、時には敵や裏切り者と見なされることもあったという。民主主義の醸成を図るネットワーク形成にも尽力し、戦中・戦後に生じた行方不明者の捜索活動も支援。こうした活動が「宗教的精神に基づく平和のための実践」と評価された。
他に受賞したのは、インドのジェニファー・リアン氏と、インドネシアのアリサ・コトルンナダ・ムナワロ・ワヒド氏の2人。
リアン氏は、民族的な政治対立により武装闘争が繰り返されるインド北東部アッサム州西部のボド地域で、「アクション・ノースイースト・トラスト」(The Ant)を設立。貧困撲滅に向けた農村開発や職能訓練、女性の人権擁護と地位向上、暴力的環境下にある人々の心身のケアなどに取り組んできた。また、人々の平和醸成能力の獲得を促進することで、地域の平和の土台をつくり上げてきたという。
ワヒド氏は、第4代インドネシア大統領の故アブドゥルラフマン・ワヒド氏の長女で、父の遺志を継承し、「多元的イスラム」「寛容のイスラム」をインドネシア社会に浸透させるため、「グスドゥリアン・ネットワーク」を設立。国内の過激派による偏見と抑圧にさらされる少数派宗派の権利を擁護し、企業による土地の収奪や生活環境の破壊に見舞われる農民の支援に奔走するなど、イスラム教的人道主義を、社会活動を通して具現化し、全国的な運動へと発展させてきたことが評価された。
賞状などの贈呈式は9月後半に受賞者の活動地域で実施され、10月中旬ごろに同財団の公式サイトでその模様が公開される。また、贈呈式とは別に、オンラインのシンポジウムや講演会の実施も予定しているという。