南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)政策を終わらせた中心人物であるデズモンド・ツツ元大主教が26日、90歳で亡くなった。
「アーチ(大主教さん)」の愛称で親しまれたツツ氏は、ノーベル平和賞受賞者であり、故ネルソン・マンデラ元大統領と密接に協力して南アフリカのアパルトヘイト政策撤廃に尽力した。また黒人では初めて、南部アフリカ聖公会のケープタウン大主教となり、教会内の人種の壁も打ち破った。
カンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビー
カンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビーは追悼文(英語)で、ツツ氏を「パイオニア」と呼び、その死は「大きな損失」だとコメント。ツツ氏の訃報を受け、「深い悲しみ」とともに、彼が与えた影響に「深い感謝」を抱いたと語った。
「アーチの愛は、政治家や司祭、町の住民や世界の指導者たちの人生を変えました。この人のおかげで世界は変わったのです。ツツ大主教は預言者であり聖職者であり、言葉と行動の人であり、彼の人生の基盤である希望と喜びを体現する人でした。並外れた勇気のある人で、ケープタウンの大聖堂に警察が乱入したときには、通路で踊って警察に対抗したのです」
「彼は非常に大きなビジョンを持った人物でした。マンデラ大統領を除けば、誰よりも早く、(多人種が共生する)『虹の国』建設の可能性を見いだしたのです。彼のビジョンと勇気は、賢明な政治的センスと知恵が結び付いたもので、多くの人がまだ傷と戦争を見ている中で、彼を癒やす者、また平和の使徒とすることを可能にしたのです」
ケープタウン大主教タボ・マクゴバ
現職のケープタウン大主教タボ・マクゴバは追悼のコメント(英語)で、ツツ氏は「神と神の目的、また神の創造物を死ぬほど真剣に受け止めた人」だったとし、「祈り、聖書、そして神から託された人々への奉仕が、彼の人生の中心にあった」と語った。
「彼は、地球上のすべての人が、神の姿に似せて造られた人間として、互いに心から尊敬し合えば味わえる自由、平和、喜びを、すべての人が経験することを望んでいました。彼はこのことを信じ、神を崇拝していたので、誰も恐れませんでした。どこであろうと、誰であろうと、間違っていることは間違っていると言いました」
「彼は人間を卑下する制度に挑みました。彼はまた、聖書が『わたしの兄弟(姉妹)であるこの最も小さい者』と呼ぶ人々に苦しみを与える人たち、特に権力者たちに対して、正しい怒りを解き放つことができたのです。そして、悪の加害者が真の心の変化を経験したとき、彼は主の模範に従い、喜んで赦(ゆる)したのです」
「デズモンド・ツツ氏の遺産は道徳的な強さと勇気、そして明晰(めいせき)さです。彼は民衆と共にありました。人の前で、そして一人で、彼は人々の痛みを感じて泣いたのです。そして、彼は笑ったのです。いや、単に笑ったのではなく、民衆の喜びを分かち合い、声を上げて喜び笑ったのです」
ヨーク大主教スティーブン・コットレル
ヨーク大主教スティーブン・コットレルは声明(英語)で、ツツ氏は信仰においてだけでなく、南アフリカという国にとっても「巨人」であったと語った。
「20世紀後半の偉大で忘れがたい記憶の一場面は、ケープタウンで開かれた真実和解委員会の閉会式が終わったとき、法廷で踊っていたツツ氏とマンデラ氏の姿です。マンデラ氏は、友人のツツ氏に委員会の委員長を依頼しました。それは、黒人と白人の間で残酷に分断された国家が、過去の恐怖を直視し、キリスト教の赦しの必要性と、和解を達成する唯一の方法としての真実の必要性を共に並べることによって、輝かしく生きることを学ぶための大胆かつ創造的な方法でした」
「このイエス・キリストの非常に陽気な小さき弟子が、南アフリカでマンデラ氏以外に国をまとめ、皆の信頼を得ることができる数少ない人物の一人だったため、ツツ氏はその委員長を頼まれたのです。この点で、彼は巨人だったのです。彼のいない世界は少し小さくなったように感じます」
世界教会協議会(WCC)
世界教会協議会(WCC)は、「人種優越主義と闘う委員会」(PCR)初代委員長のボールドウィン・スジョレマ氏による追悼文(英語)を公式サイトに掲載。スジョレマ氏は、ツツ氏を「ユニークな人物」と呼び、次のように述べた。
「彼の伝染性のあるユーモアと笑いのセンスは、南アフリカの政治と教会生活における多くの危機的状況の解決に役立ちました。彼はほとんどどんな行き詰まりも打開することができました。彼は何度も神の笑いと恵みを私たちと分かち合ってくれました」