英北部のスコットランドでは、新型コロナウイルスの感染拡大により、今年春から初夏にかけ3カ月以上にわたってロックダウン(都市封鎖)が行われた。この期間、多くの人が孤立し、物質的にも精神的にもさまざまな助けを必要としたが、地元のキリスト教会が社会の最も脆弱な人々を支援する上で重要な役割を果たしていたことを示す報告書が発表された。
発表されたのは、英国福音同盟(EA)と英キリスト教慈善団体「サーブ・スコットランド」が協力してまとめた「希望のストリー」(英語)。コロナ禍において、スコットランドの諸教会が行った活動を、スコットランド政府に提示するために作成したもので、今年5月から7月までの3カ月間の活動内容がまとめられている。
報告書によると、スコットランドの諸教会はこの期間、コロナ禍の影響を受けた人々を支援するために3200人以上のボランティアを動員し、89の支援プロジェクトを実施した。支援プロジェクトの実施地域は181カ所に上り、5万5千人を超える人々に21万2千回以上の支援活動を実施したという。
スコットランドでEAの公共政策を担当するキエラン・ターナー氏は、EAのホームページ(英語)で次のように語っている。
「2020年は私たち皆にとって混乱の年であり、教会は他の多くの必要不可欠なサービスと同様に、この状況に適応しなければなりませんでした。この報告書は、各地の教会が社会の最も弱い立場にある人々を支援する上で大きな影響を与えてきたことを浮き彫りにしています」
「教会は既存のサービスを再活用し、それにスタッフやボランティアをすぐに再配置しました。食料を届けたり、高齢者や孤立した人々に電話をかけたり、ホームレスや亡命申請中の人々を支援したり、精神的な不安を抱えている子どもや若者とつながったりする新しいプロジェクトを立ち上げました。多くの人にとって、これらのサービスは文字通り命綱であり、他のすべての通常の支援ネットワークや建物が閉鎖された日には、唯一の窓口となることも多くありました」
ロックダウン期間中の教会の活動は、これまでにない多様な連携も生み出した。教会が主導したプロジェクトには、スーパーマーケットや地域協議会、企業、国民保健サービス(NHS、英国の国営医療サービス)、住宅協会、ボランティア支援グループ、フードバンクなどが協力した。さらに、幾つかのプロジェクトは地方自治体からの資金提供も受け、計11の地方自治体が協力に応じた。
報告書には、教会のプロジェクトによって助けられた人々の声も掲載されている。
3月に新型コロナウイルスに感染した46歳の女性は、退院後に地元の教会が行っていた無料の食材宅配サービスを利用した。今も自分で買った食料品などを持ち帰る力も出ないというこの女性は、「このサービスは私にとって命綱となっています」と話す。女性は独り暮らしで、唯一の家族はペットのセキセイインコ1匹だけ。教会のボランティアは食材を宅配してくれるだけでなく、毎日電話で話をすることもでき、女性は物質面、精神面の両方で支えられているという。以前は60代に見間違えられるようなこともあったが、この数カ月で心身の健康状態は大きく改善した。「正直言って、今年は教会がなければどうしていたか分かりません。今は教会を友人のように考えています」
報告書は結論で、「この報告書は、教会がいかに地域社会の危機対応の礎となっているかを明らかにするとともに、危機的状況において地方自治体や地域のグループが教会との協力を求めていることを示しています」と指摘する。また、他者に奉仕することは「キリスト教のDNA」であり、教会は何世紀にもわたって社会的弱者の支援に携わってきたが、今回、新たな協力方法や協力の機会が存在することが示されたとしている。
その上で、「教会にとっては、地域社会に奉仕することが福音を生きる上で不可欠な要素であることを認識し、外に目を向け続けること」が大切だと強調。政府や公的機関に対しては、教会が担う役割の重要性を認識し、教会とより肯定的な関係を築くために長期的なパートナーシップを結ぶことを提言している。