世界教会協議会(WCC)とローマ教皇庁(バチカン)諸宗教対話評議会は8月、新型コロナウイルス禍にあって諸宗教の連帯を呼び掛ける共同文書「諸宗教の連帯による傷ついた世界への奉仕」を発表した。これを受けて日本キリスト教協議会(NCC)は27日、日本カトリック司教協議会諸宗教部門がNCCの協力のもとで作成した同文書の日本語訳をホームページに公開した。
文書は、「私たちが共有するもろさへの意識の高まりは、あらゆる境界を越えて到達する新たなかたちの連帯への招きとなります」とし、「今こそ、COVID-19後の世界を再考するために、新たな連帯のかたちを見いだす時」と強調した。その上で、「傷ついた世界にあって、すべての信仰者と善意ある人とともに互いに奉仕し合う、私たちの指針」として、7つの原則を提示した。
第1の原則は「謙遜と弱い立場に身を置く」。キリスト者は、主と共に謙虚に歩み、キリストの苦しみと世の苦しみを進んで分かち合うよう招かれており、「謙遜と弱い立場に身を置くことで、キリストとその犠牲的な愛の模範に倣い、キリストのうちに、自分の可能性を最大限に発揮する」とした。また、「おごりと、他者に心を開いて成長できないことこそが、分裂を生み出し恒久化させる事態に私たちを陥らせています」と指摘し、「神と格闘したヤコブのように、祝福を受けるためには、傷つくことを恐れてはなりません」とした。
第2は「尊重」。キリスト者は、人々の固有で複雑な状況と自らのストーリーを語る権利を尊重し、「人々を、私たちのストーリーの対象としてではなく、その人々自身のストーリーの主体として扱うように、また、心身の健康、国籍、所得、性、肌の色などの事柄に関して、その人々の権利と自由を脅かすものと戦うように招かれています」とした。
第3は「共同体、いつくしみ、共通善」。これらの価値観は、キリスト者がこの世界と関わるための土台となり、「公正で包括的な共同体を築き、いつくしみを育み、共通善を促進させること」に連帯の原動力があるとした。
第4は「対話と相互の学び」。「学ぶことは何もないと私たちが思い込んでいる人たちを通してさえ、神は教えてくださるということを、私たちは受け入れるべき」とし、苦しむ人や弱い立場に置かれている人のうちに、神のわざに出会う機会があるとした。
第5は「悔い改めと刷新」。キリスト者は、癒やしと一致に向けた役割を担うために、多くの人の苦しみを悪化させる抑圧体制のもとで自分たちが担った犯罪的な行為を認めなければならないと指摘。「苦しみに加担したと告白することは、私たちがより正しい生活を送ることを可能とする、真の刷新への出発点となります」とした。また、このような自己批判的な省察は、「神がその人の価値や行動に基づいて、ある人を成功させ、ある人を苦しめているという考えを否定し、沈黙と中立によって私たちが暗黙のうちに永続させてきた不正の体制を克服するのに役立ちます」とした。
第6は「感謝と寛大さ」。キリスト者は感謝と寛大さに招かれているとし、「自分自身の功績を通してではなく、完全なたまものの源である神によって与えられるたまものにおいて豊かになるのだということを忘れてはなりません」とした。また、初代教会の特徴の一つは「喜びと誠実さをもって、すべてを分かち合うという生き方」だったとし、「イエス・キリストのうちに、神がご自身を啓示してくださったことに対する喜びと感謝は、思いもよらない寛大さの模範によって強められながら、傷ついた世界への奉仕の最前線に立つために必要な安心感と自信を与えてくれます」とした。
第7は「愛」。キリスト者は、キリストの愛を生き、キリストの顔を世界に示すよう呼ばれているとし、「(より良い世界のために)共に働くことは、私たちの信仰と使命を活動的で生き生きとしたものに保ち、私たちキリスト者の生活をキリストの現在の愛のしるしとして形作り、そして、私たちの愛を行動で表現するために共に働く人々と私たちとの間に、愛と理解を築きます」とした。
最後に以下の7つの提案を示し、すべてのキリスト者に対して隣人に奉仕し、また隣人と共に奉仕するよう呼び掛けた。
1. 苦しみを証しし、それに目を向け、傷ついた人や弱い立場に置かれた人の声を排除したり黙らせようとしたりするあらゆる力に立ち向かい、この苦しみの背後にある体制や人々の責任を追及しましょう。
2. 今日、わたしたちの社会でさまざまなレベルで見られる排他主義のあらゆる兆候に対抗するために、相違を神からのたまものと見なす包括的な文化を促進しましょう。これは家庭生活の中から始め、他の社会制度を通して継続していく必要があります。そのために、健全で建設的なコミュニケーションを強化し、平和と連帯のメッセージをさらに発信するよう、責任をもったソーシャルメディアの使用を勧めます。
3. 霊性を通して連帯を育みましょう。祈り、断食、自制、施しなどの宗教的実践のうちに、より広い世界が必要としているもの、苦しんでいる人と連帯するようにとのわたしたちへの呼びかけに気づき、どのようにしてより深く浸透させることができるかを考えましょう。
4. 共感する心を育み、傷ついた人々のために他者と協力して働くための最善の知識と手段を身に着けるよう、聖職者、修道共同体、男女修道者、信徒、司牧活動の協力者、学生たちの幅広い養成に取り組みましょう。
5. わたしたちもその一部である傷ついた世界を癒やす働きに、若者たちを参加させ、支援しましょう。理想を求める若者たちの姿勢と活力は、冷やかな事なかれ主義への対抗手段となりえます。
6. この文書が目指していることですが、さまざまな考えを受け入れる、包括的な対話の場を作りましょう。連帯に対する取り組み、動機、原則、提案を、他の宗教を信じる人々から学びましょう。そうすることで、わたしたちは理解と協力をより深めることができます。疎外された人々の声を聞き、尊重される場を確保し、帰属する場所を提供しましょう。異なるグループが愛と理解のうちに成長できるよう、ともにいることができるプラットフォームを作りましょう。
7. 他の共同体・組織・機関との協力によって改善できるところを明確にするために、進行中の取り組みと既存の強みを検証し、諸宗教連帯の取り組みとその過程を再構築しましょう。わたしたちは多様性をもつものとして創造されたのですから、その多様性を認めるかたちで取り組みを再構築してください。わたしたちの働きは、「自分たちの中にだけ」とどまりたいという誘惑に抵抗してこそ、人間性の成熟を反映することができます。傷ついた世界にともに奉仕することで、わたしたちは皆、隣人となるのです。