昨年末に米国、そして今年初めには日本でも公開された映画「沈黙」。日本人のカトリック作家、遠藤周作原作によるハリウッド映画とあって、日本国内はもとより、海外でも大きな話題を呼んだ。同作で描かれた「隠れキリシタン」について、関東でもその遺物や資料を見学できるカトリック大宮教会(さいたま市)内の「キリシタン資料保存会」(通称・コルダの会)を取材した。
コルダとは、ポルトガル語で「紐、綱、縄」という意味。禁教令のもと、信徒の世話や宣教を担ったカトリックの各修道会は全国に「コンフラリア」(組講)を組織した。北関東では、フランシスコ修道会士によって、1602年「コルドン(聖帯)の組」が組織された。コルドンはまた、フランシスコ会の修道服の「下げ紐」という意味でも使われている。これらにちなみ、「キリシタン時代から天の国に通じていたコルダにつながりたい」といった思いを込めて「コルダの会」と名付けたとのこと。
キリシタン史というと、おのずと想像するのは、長崎を中心とした九州地方。昨年から今年にかけて、映画の影響もあり、多くの巡礼ツアーなどが企画され、同地を訪れたクリスチャンも多いのではないだろうか。しかし、北関東にもキリシタンの足跡が残り、多くの地でその遺物が発掘されていることをご存じだろうか。
ここに展示されているキリシタン遺物は、茨城県古河市在住の郷土史家でキリシタン史研究家の川島恂二氏が約40年にわたって収集し、保管してきたもの。「一般の方々にも見てもらいたい」という同氏の思いを聞いた大宮カトリック教会信徒有志らは、「自分たちに何ができるか」を祈り、考えた。コルダの会メンバーの1人は言う。
「私たちの先人が必死で守ってきた信仰。その証しとして、これらの遺物を信仰者の手で守る意味は大きい」
2001年に川島氏からキリシタン遺物数点を寄贈するとの意向を受け、同教会有志らによって教会内に保存することが決まり、同年、教会の自主活動として、「キリシタン資料保存会」が立ち上がった。
現在、会員は約70人。教団教派を問わず、多くのクリスチャン、また一般の人々も同会に参加し、巡礼、講演会などを中心に活動している。
展示されている遺物の中でも特に目を引くのが、幼子イエスを抱いたマリアと、それを拝みにやって来た人々の姿の彫られた銅板。表面はツルツルになって、描かれている人々の表情はすでになく、ボロボロのその銅板はどこか寂しげに見えた。これが多くの人々の足で踏まれた「踏み絵」である。
足利代官所で使用されていたと言い伝えられているこの踏み絵は、旧家から見つかった。裏側には当初、血痕らしいものも付着していたとのこと。
教会ホール階段に掲げられている旗も、同会の保存資料の1つだ。草木染めの朱絹に十字紋と姓名を白く染め抜いたこの旗(132 ×109センチ)は、古河藩の菅谷(すげのや)長兵衛が所持していたもの。この旗を持って各地で戦い、大阪冬の陣(1614年)にも参戦したと同家に伝えられていた。現在はUV加工された額に納められ、さらにミサのない日、特別事情のある日以外はカーテンが閉じられ、日光が当たらないよう大切に保存されている。
他にも、古河藩士や家臣が使用したと思われる、十字やマリア母子像を描いた刀の鍔(つば)などが展示されている。そのどれもが、時代と彼らの信仰を物語る貴重な資料だ。
「これらは私たちの先人が守った大切なもの。私たちも彼らの信仰を見習うとともに、しっかりと継承していきたい。『コルダの会』も年々、高齢化が進んでいるので、これから若い方々が入会してくれることを望んでいる」とメンバーの福島憲代さんは話す。
会員には、巡礼や講演会の案内が届く。年会費は千円。詳しくはホームページを。
キリシタンを称える祈り(コルダの会の祈り)
慈しみあふれる神よ、あなたは、かつて、この厳しい北関東の里に生きた多くの人々の信仰を育み、ついには、彼らを永遠なる至福のみ国に導かれました。
彼らの生活は、信仰について誰とも語れず、人からは侮られ、見捨てられ、ただ、ひたすら心の中で、神を仰ぎ、苦しみの中での厳しい強制労働の毎日でしたが、彼らは、ついに『自らの血をもって、その信仰の真理を証明』しました。
私たちも先人にあやかり、いつの日かあなたのみ国へ至ることができますように、私たちをお導きください。 アーメン